
将来世代が裨益する積極財政と強力な物価高騰対策を
2025-5-19
1 将来世代が裨益する積極財政を
建設国債と赤字国債
国債には、いろいろな種類があるが、毎年新規に発行される主な国債の種類は、「建設国債」と「特例公債(いわゆる「赤字国債」。以下「赤字国債」の用語を用いる。)」だ。
「建設国債」は、財政法に、「国の資産を形成するものとして、公共事業費、出資金及び貸付金の財源に充てるために発行される国債」と規定され、「赤字国債」は、「建設国債を発行してもなお不足する歳出財源を補うため特例的に発行される国債」と規定されている。
ただ実際は、いずれの国債も「国の借金」の扱いで、「プライマリーバランス」(税収+国債償還費を、毎年の国の支出と均衡させる目標。)を赤字にする要因として計上されている。
政府は、2025年度におけるプライマリーバランスの黒字化を財政健全化の目標として掲げており、いきおい、建設国債の発行も抑制的な運用が続いてきた。
建設国債が赤字国債と同じ扱いとなったわけ
建設国債で行われる事業は、国の資産を形成する。その資産は、将来の世代が利用することが可能で、毎年の経費が足りないから借金をする赤字国債(将来の世代に付けを回すことになる。)とは、その性格を大きく異にするはずだ。
ところが、かつて、「誰も使わない道路や橋」の問題が指摘され、「無駄な公共事業」がやり玉に挙がった時期があった。いわゆる公共事業悪玉論だ。
このため、建設国債が、プライマリーバランスの赤字化要因とされてしまったようだ。
査定をしっかりすれば建設国債は将来世代の財産に
建設国債により形成された資産は、費用対効果をしっかり見極めれば、将来世代の大きな財産となる。
例えば、国土強靱化の一環として行われる遊水池等の治水機能の強化は、将来起こるであろう大災害を未然に防止し、発災時に失われるであろう生命や財産の被害を救うことになる。
また、将来にわたって耕作を希望する農家の要請によって行われる土地改良事業(農地の大区画化等)は、農家の要請によって行われるわけだから耕作放棄地となる心配はないし、将来にわたって農地の生産性を飛躍的に高め、今後の税収増や食料安全保障の確保に大きく寄与する。
私は、費用対効果の査定(事前検証)を確実に行うことを前提として、建設国債を、プライマリーバランスの赤字化要因から除外し、別枠で考えるべきという意見を持っている。
農林水産委員会で質疑を行う
4月17日の衆議院農林水産委員会。
与党筆頭理事である私は、食料安全保障確保のため、現在政府は農地の大区画化等による農業生産性の飛躍的向上を進めているが、現在の抑制的な計画のままでは、計画の完了まであと130年の年月がかかってしまうことを指摘した。
その上で、将来世代が裨益し、これからの生産性向上に大いに資する事業については、建設国債の発行による事業費の大幅な拡大に躊躇すべきでないと述べ、さらに、費用対効果の査定をしっかり行い、事業受注者の計画的設備投資を促す意味からも、補正予算でごまかすのでなく、当初予算で措置すべきと主張した。
現在私は、同様の主張を、私が役員を務める自民党の「財政改革検討本部」においても、毎回述べさせていただいている。
建設国債(現在、毎年の発行額は7兆円弱)をプライマリーバランスの赤字要因から除外すれば、我が国の生産性や安全性を向上させ、将来世代が裨益する積極財政が可能になるだけでなく、計算上は、プライマリーバランスが、建設国債の発行分だけ改善されるため、黒字化目標を堅持したとしても、見かけ上の財政余力が発生する。
だからといって私は、無駄遣いをして良いと言っているわけではない。
この「財政余力」は、今緊急に必要な医療・介護崩壊の阻止や、物価高騰対策など、真に困っている皆さんに手をさしのべ、格差の是正に資する施策に用いられるべきであろう。
2 強力な物価高騰対策を
「減税」、「減税」の大合唱で本当に良いのか
現在政治の世界は、「減税」、「減税」の大合唱だ。
確かに、コメの高騰などが押し上げ要因となって、本年3月は、消費者物価が前年比4.2%増、名目賃金の伸びは2.1%だったので、実質賃金は2.1%のマイナスとなってしまった。
国民の皆様は本当に困っている。
国民民主党は、かねてより、基礎控除と給与所得控除の合計額を大幅に上げて減税すべきと主張しているが、この主張が、金持ち優遇であることは、私は別の機会で論じた。
また、立憲民主党は、食料品に適用される消費税の軽減税率を、1年間に限って廃止すべきという公約を打ち出した。
かつて岸田政権の時代、自民党が「定額減税」を打ち出したときに、野党の皆さんが、「給付の方が良い」と主張されていたのとは、まさに様変わりだ。
これは、「給付」と言えば、「バラマキ」というあまり良くないイメージが広まってきたことや、実質賃金の低下が長期化し、1回で終わってしまう給付よりも、より恒久的な措置が求められつつあるということかも知れない。(その意味で、1年限りの減税案はいささか悪手と思う。)
消費税を減税したときの問題点は理解されるか?
5月16日、党本部で、自民党税制調査会の正副会長・幹事会議が開催され、私も税調副会長として出席した。
会議の席では、財務省と総務省から、消費税率を引き下げた場合、実務上大混乱が生じることなどについて、丁寧な説明があった。
いずれも、冷静に考えれば非常にわかりやすい資料で、説得力もあるものだったが、問題は、消費税を減税したときの問題点を説明したときに、国民の皆様に聞いていただけるかどうかということだ。
そこで私は、「客観的に考えれば良い資料だが、減税に傾きかけている国民の皆様にとっては、『また財務省が、減税を止めるための屁理屈の資料を作ってきた。』と、とられかねない。」と指摘し、次に記す持論を述べた。
消費税率下げの代わりに「消費税の還付」を全員に定額で
消費税の税率を下げれば、システム改修の問題や、免税事業者
の取り扱いなど、大混乱が起こるのことは必至だ。
国民の皆様に支援を届けるには、給付の方が行政事務的には楽なのだが、「1回限り」で「選挙目当て」の「バラマキ」と見られるようではマイナスだ。
しかも、昨年末のように、給付を住民税非課税世帯に限定すれば、事務量は煩雑だし、資産は持っているが収入が年金生活だけのため、形の上で住民税非課税となっている方を優遇することになり、物価高にあえぐ現役世代に支援が届かない。
もともと消費税は、所得の低い方ほど重税感があるという逆進性を持っている。このため、私は、税調正副会長会議の場で、物価高騰対策に加え、消費税の逆進性を緩和し、格差の解消に資するため、「物価の高騰が続く当分の間」、消費税を、国民全員に定額で「還付」するべきという意見を述べた。
例えば、国民1人あたり3万円を「還付」すれば、所得200万円以下の世帯については、支払った消費税額の約54%が還付され、所得200~300万円の世帯については、支払った消費税額の約44%が還付されることになる。
その一方、所得1500万円超の世帯については、支払った消費税額に対する還付金の比率は約22%ということになる。
これは、「還付」であるが、国民全員に対する定額の還付であるため、事務作業は、市町村でも可能になる。
要する財源は、消費税1%分に当たる3兆円強。
私は、このような施策にこそ、先に述べた「財政余力」を活用すべきと考えている。
自民党がこれくらいの施策を打ち出してこそ、「消費税率の減税は事業者に大きな負担となり、大混乱をもたらす。」といった説明に、国民の皆様が耳を傾けていただけるのではないか。
米価高騰と備蓄米放出の背景
2025-3-6
令和7年2月14日、江藤農林水産大臣は、最近の米価の急騰と品薄感を背景に、政府備蓄米21万㌧を、1年の買い戻し特約付きで、集荷業者に交付する措置(いわゆる備蓄米の放出)を正式に発表した。
そこで、今回は、昨年来米価が上昇し、今年に入ってからもなお高騰している背景などについて、私なりの分析を加えてみたい。
昨年の米価上昇の背景
令和5年産米については、全銘柄平均の相対取引価格(10月時点)で、1俵15,315円-流通経費で生産者から買い取られた(流通経費は1500~2000円)。これは、その前年を約10%上回っていたが、この20年間程度の米価としては、標準的な米価ということができた。
これが、令和6年の夏頃から、特にスーパーの店頭価格の上昇が顕著になった。
確かに令和5年のコメの生産量は661万㌧で、当年の需要予測よりも数万㌧少なかったということに加え、インバウンドによる消費が需要を押し上げた、あるいは、高温障害により精米歩留まりが下がったなどの説が提起された。
ただ、令和6年のインバウンドによるコメ需要は前年比1万㌧増程度で、高温による精米歩留まりの低下も、1.6%程度あったが、それでも令和6年6月時点の民間在庫は153万㌧あり、農林水産省も、米価の急上昇ということは予想していなかったようだ。
ところが、令和6年8月8日、宮崎県沖の地震を契機に南海トラフ地震臨時情報が発令され、西日本を中心に、コメの買いだめが発生した。
これまではどちらかというとコメ余りの状況が続いており、主産地でない西日本や大都市圏では、小売りや中小卸の在庫がなくてもすむ状況が続いていた。
そこに、スーパーの棚からコメがなくなるという自体が出来し、スーパーとしては、高い価格でも品揃えをせざるを得ず、店頭価格は急激に上昇した。
この時点で、農林水産省は、令和6年夏の一時的なコメの高騰は、端境期の一時的なもので、令和6年産の新米が市場に出てくれば、落ち着くものて見ていた。
農林水産省の見通しが外れた理由を考える
令和6年産米は、作況101と平年並みだったが、10月時点で、1俵23,715円(農家の手取りはここから流通経費が引かれる)と、作況90と不作だった平成15年以来の高値で取引された。
この価格については、「高すぎる」という意見もあれば、「今までが安すぎた」という意見もあった。ただ、問題は、この時点で、コメの「適正価格」がいくらなのか、また、コメの生産にいったいどれ位のコストがかかるのかということが、生産者にも、消費者にも、必ずしも明らかになっていなかったということだ。
だから私は、自民党の委員会で、早急にコストの調査を行い、令和7年産の営農計画に反映させるべきと主張し、これが令和6年の補正予算で事業化された。
さて、令和6年産米の生産量は679万㌧、これは、令和6年~7年にかけての需要予測674万㌧を上回った。先にも述べたように、インバウンドによるコメ需要が増加したとしても1万㌧程度、しかも、新品種の投入等により、令和6年産米の精米比率は、令和5年産米のそれを1%上回った。
このため、農林水産省は、米価は平年よりも高い水準とはいえ、安定的に推移するものと予測していた。
しかし、この予測は見事に外れ、コメの店頭価格は令和7年に入ってもさらに上昇、卸同士では、2月時点で1俵4~5万円で取引されている。
農林水産省は、投機的な動きもあり、どこかでコメが滞っていると見ているようだが、私は必ずしもそうは思わない。
投機的な動きでコメの価格が高騰したのであれば、2月14日の備蓄米放出を契機に価格は下がるはずなのに、現実はそうなっていないからだ。
私はむしろ、今までのコメ余りの状況で在庫を持たないできた大口実需者や小売業者、さらには中小の卸が、令和6年の米不足を受け、在庫を持つようになったからではないかと考えている。
これは、在庫という形で消費者に食べていただく需要でないため、実需674万㌧の外の1年限りの需要増だが、それでも、少しずつ在庫を積み上げれば、全国で数十万㌧のオーダーにはなるものと思われる。
適正な米価で持続可能な食料システムの構築を
本年に入り、先に述べた令和6年度補正予算で措置されたコメのコスト調査の速報値の説明を受けた。
令和4年における関東の全コメ銘柄の平均値だが、(速報値であるため、現時点では非公表。このため、百円台は四捨五入し、概数で記載する)
生産コストは、玄米 1俵当たり14,000円
生産者の手取りは、玄米1俵当たり11,000円
スーパーの店頭価格は、精米60㌔22,000円、5㌔2000円
とのことだった。
令和4年は、その前の年の令和3年に過剰在庫により米価が下落したため、主食用米以外の作付けを増やし、米価安定のための努力を行ったにもかかわらず、結果としてみると、農家段階では赤字という結果だったわけだ。
そして、この「生産コスト」には、「家族労働費」は含まれていない。そのことを考えると、生産コストに2~3割を上乗せした価格でないと、持続的なコメの生産は難しいような気がする。
令和6年は、令和4年と比べ、物価高の影響で、肥料や資材などのコストが上がっているわけで、私自身は、1俵23,715円(農家の手取りはここから流通経費が引かれる)という令和6年10月時点のコメの価格は、「これまでと比べると高い」ことは間違いないが、「高すぎる」とまでは言えないと考えている。(この価格だと、店頭価格はおおむね5㌔3000円程度と推計される)
ただ、コメが、卸同士で、1俵4~5万円で取引されるという状況は明らかに異常だ。(店頭価格は、5㌔4000円以上になってしまう)
この物価高の中、消費者の家計を圧迫するだけでなく、長い目で見れば、コレまで以上に消費者のコメ離れを招いてしまう。
また、生産者サイドでは、それだけ儲かるのならと、主食用米の過剰作付けの誘因となり、供給過剰による米価暴落を招きかねず、次に米価が暴落したときは、多くの農家が廃業してしまうことも懸念される。
このような理由から、私自身は、本年に入ってからは、早めに備蓄米を放出すべきという意見に傾いていた。
しかも、もしも本年、過剰供給が生じたとしても、「買い戻し特約」により、毎年の備蓄米購入量20万㌧に加え、さらに21万㌧を市場から隔離することができるため、米価の暴落を防止できるという効果もある。
いずれにせよ、このような営みにより、生産者、消費者の双方が納得できる持続的なコメの生産システムを構築していきたい。
国民民主党の原案では「お金持ちの方がより得になる」 ~ 一定の所得制限が必要ないわゆる「103万円の壁」の議論
2025-2-25
本年に入ってから、いわゆる「103万円の壁」についてのニュースを見聞きしない日はない。
ただ、地元の皆様と話をしていても、良く説明しないと、議論がかみ合わないことが多い問題でもある。
そこで、今回は、この問題を取り上げてみたい。
現在議論されているのはパート勤務配偶者の年収の壁問題ではない
まず、現在問題となっているのは、よく言われる、パート勤務の配偶者の年収が103万円を超えると、扶養から外れてしまうため、年末近くなると働き止めをしてしまうという、「103万円の壁」の問題とは、全く別ということだ。
ちなみに言うと、パート勤務配偶者年収の「103万円の壁」については、配偶者特別控除という制度の創設により、年収が103万円を超えても、年収が201万円になるまでは、「扶養から外れる」のではなく、段階的に「扶養控除」(満額で38万円)の金額が縮小される仕組みになっている。
このように、103万円の年収を境に、「配偶者控除」から「配偶者特別控除」に名前が変わり、しかも年収150万円から201万円まで控除額が段階的に下がることとはなるが、実質的には、「パート勤務配偶者年収の103万円の壁」というのは存在しない。
それでも何故「パート勤務配偶者年収の103万円の壁」が存在していると思っている国民が多いのかと言えば、私は、このような制度改正が行われてきたことを正確に報じてこなかったマスコミの責任が大きいと思う。
では、国民民主党は、どのような主張を行っているのだろうか。
「103万円を178万円へ」ということの意味
さて、ここまで、「控除」という言葉を使ってきたが、これは、「税金の計算の時に、総所得から差し引かれる金額」のことで、「総所得-控除額=課税対象所得」ということになる。
この「控除」には、先に述べた「配偶者控除」や「配偶者特別控除」のほかにも色々な種類があり、議論が極めて複雑になるため、詳しくは論じない。
ただ、ほとんど全ての納税者に関係する「控除」が、「基礎控除」と「給与所得控除」だ。今回国民民主党は、この2つの「控除」を引き上げて、「手取りをふやす」と主張しているわけだ。
現在、基礎控除の金額は48万円、給与所得控除の金額が最低55万円となっており、その合計額が103万円であるところ、これを、「全ての所得階層で、178万円に引き上げよ」と言うわけだ。
つまり、国民民主党の主張通りの税制改正を行えば、全ての所得階層で、課税対象所得を75万円引き下げることとなる。
お金持ちの方がより得になる制度で本当に良いのか
課税対象所得を75万円引き下げれば、確かに、全ての所得階層で減税になる。でも、減税額は、お金持ちの方がはるかに大きくなる。
これは、所得税に累進税率が採用されている(住民税は10%の均等税率)ことによるものだ。
ちなみに、課税所得195万円の方にとっては、所得税と住民税合わせて11万2500円の減税になるが、課税所得1000万円の方には24万7500万円、課税所得2000万円の方には37万5000円の減税と、国民民主党の主張通りの制度を導入すれば、お金持の方がより得をする仕組みとなってしまうのだ。
一定の所得制限は必須
現在、20代男女の平均年収は約360万円、30代については約451万円だという。これらの層の「手取りを増やす」ため、「基礎控除と給与所得控除」を引き上げ、課税対象所得を引き下げることに、私は反対しない。
そして、この物価高の中、日々のやりくりに苦労している皆様についての控除額を、現行の「103万円」から「178万円」への引き上げを目指す方向性を否定するものではない。
しかし、「基礎控除と給与所得控除」の引き上げを、全ての所得階層について行うことは、お金持ちを優遇することとなるため、反対だ。
では、一定の所得制限をどの辺に設定するのかということだが、当初自民党が提案した「200万円」というラインは、いささかシャビーな印象は否めない。
そこで、現在、850万円(詳しい説明は省くが、所得850万円を超えると、これまで所得に応じて増加してきた給与所得控除の金額の増がなくなり、一定額になる。)というラインが検討されているが、私は、30代の平均年収の2倍弱に当たることからも、おおむね妥当と思っている。
いずれにせよ、詳細は今後の議論に委ねられることとなるため、注視していくこととなるが、自民党は責任政党として、バランスのとれた政策を実現すべきであって、少数与党であるからといって、国民のためにならない妥協をしてはならないと思う。