社会的弱者に光を当てる仕事(2)~振り込め詐欺の被害者救済のために

2007-5-2

プロジェクトチームでの発言の模様

「カネミ油症」被害者救済の特別立法と並び、私が今国会でその成立を期しているのが、「振り込め詐欺」被害者救済(被害回復)の特別立法だ。
かつて、親族・友人を装い、示談金の振り込みなどを要求する犯罪が、「オレオレ詐欺」と言われて話題になったが、最近では、これに加え、例えば、アダルトサイトの架空請求、警察官や裁判官を装った示談金の要求、架空融資を持ちかけての保証金の要求など、極めて多様な手口が出現しており、現在、これらの犯罪を、「振り込め詐欺」と総称している。
しかも、その被害金額は、平成17年中が約252億円、平成18年中が約250億円と、極めて膨大だ(警察庁調べ)。
振り込まれたお金は、すぐに引き出されてしまうことが多いが、被害者が、振り込みの直後におかしいと気付き、警察への届出を行い、その口座名が金融機関に通報されることなどで、その口座を凍結、犯人による引き出しをストップできる場合もある。
この凍結口座にある「たまり金」が、現在約70億円、ただ、これを被害者に「返還」するには、現在、法的に重大なネックがある。まず、その口座のお金が、法的に誰のものかという問題だ。
法的には、預金について、銀行は、口座名義人(犯人)への払戻義務のみを負い、被害者には、払戻請求権がない。
さらに、今の民法の原則では、詐欺で騙された場合の振り込みは、「無効な契約」とされるが、被害者は、銀行でなく、犯人に対して、契約無効による返還を請求するのが筋とされている。
ただ、犯人は所在不明の場合が殆どで、これでは間尺に合わない。
そこで、現行民法でも、その口座にあるお金が、被害者の振り込んだお金だけであるような場合、銀行が「代位弁済」と称し、被害者に「返還」することは可能とされているが、後で口座名義人から抗議が来る可能性もあり、銀行が2の足を踏むケースもあるようだ。

次に、銀行が、「代位弁済」による「返還」を積極的に行えることとしたとしても、どの範囲の被害者に、いくらのお金を「返還」すればよいのかという問題が生じる。
例えば、10人の被害者が、500万円ずつ振り込んだが、口座凍結前に既に4000万円が引き出され、残高1000万円といった場合どうしたらよいのかという問題だ。
このような場合、銀行が、被害者同士の利害調整まで引き受けるケースはまれで、結局お金は宙ぶらりんになることが多い。

さて、凍結口座のお金が、被害者に「返還」されないままでいるとどうなるか。
10年間、口座名義人(犯人)からの払戻請求がないと、そのお金は、時効により、銀行のものとなってしまうのだ!
これはやはりおかしい。

実は「振り込め詐欺」について、私も、平成16年秋以来、警察庁での経験を買われ、「振り込め詐欺撲滅ワーキングチーム」に加わり、金融機関等本人確認法(口座売買の禁止等)、携帯電話不正利用防止法の制定など、犯罪撲滅のための法制に参画してきた。
そして、今まで述べてきた、いわゆる「金融機関のたまり金」の問題についても、昨年6月に、与謝野金融担当相(当時)が、正式に検討を表明し、私自身も、いろいろ知恵を絞ってきた。

ただ、どういう法律構成にすれば良いのか、金融庁も、法務省も、警察庁も、ほとほと困ってしまった。役所の知恵は出そうにない。
仕組みが余り複雑すぎても、またアバウト過ぎても困るし、勿論従来の法体系との整合性も必要だ。
このように、最近は、政治家自身に、方向性を示すだけでなく、法的な知恵が求められる場面も多い。

そこで、昨年12月、私から、かつて警察庁外勤課の企画担当課長補佐時代に担当した遺失物法では、「犯罪者の置き去り物件」を「遺失物」として扱い、簡易な手続きでの公告(警察署への掲示等)が行われることを引きながら、次のような方向性をペーパーに示し、提案させていただいた。
○凍結口座については、遺失物法を参考に、インターネットなどによる簡易な手続きでの公告(3月程度)を行い、名乗り出がなければ、口座名義人の権利を失わせてはどうか(形式的には、一旦銀行のものにはなる。)。
○口座名義人の権利が失われた口座については、一般への情報提供を行い、銀行に対し、名乗り出た被害者に対する「返還」(支給)義務を課してはどうか(返還方式は多分比例按分)。
○被害者の名乗り出がないなどの理由で、最終的に銀行の手元に残ったお金について、銀行には、犯罪被害者救援事業などの公益目的の寄附をさせることなどとしてはどうか。

その後、制度を精緻化する過程で、預金保険機構の関与などの制度も加わったが、基本的には、私のペーパーをベースとして法案を作成、2月には骨子案を自民党内のチームに図り、4月27日には、条文案について、自民・公明の与党PTでも了承を得た。

役所の方も、「この手の、エイやっという決めの問題は、やはり議員立法でないとできない」と話していたが、ご高齢者がほとんどと言われる振り込め詐欺被害者の救済の問題など、社会的弱者に暖かい目を向けていくことは、やはり、政治家としての、大きな役目ということができよう。