経済対策補正予算が平成21年早々の提出となったわけ~国会対策の現場から

2008-12-9

開拓者全国大会で経済対策を説明

わが国の景気・雇用は、急速、かつ、確実に悪くなっている。
だからこそ今、スピード感を持った対策の実行が必要だ。
ただ、政策実行のためには、その都度新たな立法措置が必須なのだが、唯一の立法機関であるはずの国会、とりわけ民主党が主導権を握る参議院が、衆議院から法律案が送付されても、意思決定を行わないまま長々と審議を続けるという状況が、昨年来続いている。
残念ながら、このことにより、政策遂行のスピード感は奪われ、予算執行や税金徴収の期限切れ期間を作ってしまうなど、国民生活に混乱さえもたらしてきたのが現実だ。
私は、このような体たらくが、「政治発の経済危機」を招来することを、真剣に危惧している。
そのような中、11月25日、「経済対策」・「生活対策」を柱とする平成20年度第2次補正予算の提出が、来年早々の次期通常国会となることが決まった。
今回の決断は、民主党の今までの出方を見た場合、本予算執行の空白期間を作ることにより、景気や雇用の足を引っ張っることがないようにするための、まさに「苦渋の選択」だったと思う。私は、昨年8月来、自民党国会対策副委員長として、予算委員会・国土交通委員会・参議院連絡を担当、さらに、民主党の国会運営のやり方も、つぶさに勉強させていただいた。
その上で、もしも今回、麻生内閣が民主党の小沢代表の誘いに乗り、第2次補正予算を今の臨時国会に提出した場合、来年4月以降、予算執行の空白(予算が執行できず、あらゆる契約が締結できない状況)が長期間生じる可能性が極めて高かったのではと思っている。
今は、自民党が衆参いずれもで多数を持っていた時代とは違うからだ。

(景気減速による税収減で「さらなる補正予算」が必要な事態に)

マスコミでは、「定額給付金」などを含む5兆円規模の「第2次補正予算」のことだけが大きく取り上げられている。
ただ、報道こそ小さいものの、負けず劣らず大きな問題がある。
平成20年度の景気減速に伴う税収見通しの落ち込みの問題だ。
11月中旬、本年度の税収が、当初見込みの53.5兆円から、6兆円程度落込む見通しであることを明らかになった(11月18日発表)
いわゆる歳入欠損だ。
6兆円というのは半端な金額ではない。
そして、この穴埋めをするためには、いわゆる「埋蔵金」を取り崩すのか、「赤字国債」を発行するのか、政治決断が必要な問題で、当然、与野党で意見の相違も出てこよう。
いずれにせよ、12月15日の平成20年度歳入見通しの確定を受け、財務省では、さらなる「補正予算」を編成しなければならない。
この「歳入欠損対策補正予算」の編成は、12月15日以降でなければ行えないため、その提出時期は、どんなに早くても、来年の通常国会冒頭と言うことになる。

さて、「第2次補正予算の提出時期」の問題は、「5兆円の経済対策補正予算」を「6兆円の歳入欠損対策補正予算」と別立てにするのか(別立てであれば臨時国会への提出が可能)、一緒にするのか(一緒にすれば、提出時期は、自動的に、通常国会冒頭ということになる。)という問題に尽きる。

(ほとんど報道されない予算編成・予算審議の仕組み)
ここで、予算編成や予算審議のスケジュールの問題が絡んでくる。

まず、一口に「予算」といっても、補正予算で数兆円、本予算で数十兆円(一般会計)規模のお金と事業の固まりで、その編成には膨大な作業が必要だ。
まあ、ザックリと言うと、
○予算の編成作業には、予算の大綱方針の決定から、政府原案の閣議決定まで、20~30日間(民主党の小沢代表もこれくらいの時間を要することを認めている。)の徹夜作業になる。
○衆参で予算委員会が開催されている間は、大臣以下、局長、主計官、主査等は、国会審議に忙殺され、予算編成作業が出来ない。
といったところだろう。

これに加えて、ネジレ国会の下では、特に参議院で、予算審議に「時間がかかる」。
平成20年度予算の例では、参議院では、予算案審議に1か月(1月で自然成立)、予算関連法案審議に2か月(2月でみなし否決)はかかることも覚悟しなければならなかった。
さらに、参議院で内閣問責決議が可決でもされたら、参議院は、政府提出予算案や法案の審議を一切しなくなるという最悪自体も想定していかなければならない。

(景気対策には本予算・関連法案の平成20年度内成立が至上命題)

経済対策や歳入欠損対策のための補正予算は、勿論極めて重要だ。
ただ、社会保障や雇用対策、税制など、景気対策の王道は「本予算」であることは間違いない。
現下の経済状況を考えると、来年は、本年のように、予算関連法案の成立が、参院審議の遅れにより1月もずれ込み、4月中の公共事業の発注が、ほとんど止まってしまうと言う事態は、絶対に避けなければならない。
衆議院の審議を極めて効率的に行ったとしても、1月初旬の補正予算審議入り(1か月程度で予算成立、2か月程度関連法案成立)、1月末ないし2月初旬の本予算審議入り(1か月程度で予算成立、2か月程度で関連法案成立)が、政治発の経済危機をもたらさないために、譲れないスケジュールということになる。

となると、民主党の小沢代表が言うように、「景気対策補正予算(第2次補正予算)を(歳入欠損対策補正予算と切り離して)11月中に臨時国会に提出した」場合、上記日程の確保が可能かという点が焦点となるわけだが、その確約は、得ることができなかった。

(民主党の主張する日程では予算の年度内成立が危ぶまれる)

11月17日の民主党の小沢代表からの突然の申し入れで、急遽、その日のうちに、麻生・小沢の党首会談がセットされた。
小沢代表は、景気対策補正予算の早期提出を要求、「国会に提出された時点で可及的速やかに処理すると明言。『常識的な予算案が提出されれば審議をし、国会としての結論を得ることを代表の責任をもって約束する』と伝えた」(民主党HPより)とのことだ。
ただ、この発言は「(小沢氏が)常識的でないと考える予算案」については、審議をしないと言っているワケで、何よりも、参議院で予算案を何時採決するつもりか、一切の言及がない。

具体的な日程に言及したのは、民主党の山岡賢次国会対策委員長。
山岡氏は、11月24日、記者団に、「政府が第2次補正予算案を11月末までに提出した場合、来月25日前後には採決に応じる」と述べる。
ただ、このような、民主党が想定する日程では、歳入欠損対策補正予算や本予算の編成作業は、大幅に遅れることになる。
すなわち、通常は12月に行われる予算案の編成作業が、臨時国会終了後の年末年始にずれこみ、歳入欠損対策補正予算の審議入りが、1月下旬にずれ込まざるを得ないからだ。
民主党から、経済対策補正予算は、ネジレ国会以前のかつての補正予算のように、衆参合わせて1週間程度で議了するという約束が得られない限り、最悪の場合、平成21年度の本予算が、年度当初の2~3週間執行できず、日本の景気は壊滅する事態も予想される。そして、今回、その確約は得られなかった。

こうして考えると、本予算と関連法案を確実に年度内に成立させ、切れ目ない景気対策を行うためには、経済対策補正予算案と歳入欠損対策補正予算案を一緒にした補正予算案を、1月初旬に国会に提出するのが、結果的に最も確実な方法ということになるわけだ。
「国会対策」というのは、国民にはちょっと分かりずらいが、相手さんが、「党利党略」の主張をしてくることを織り込んだ上で、いかに景気対策の遂行や国民生活に混乱を来さないようにするか、まあ、骨の折れる仕事だ。
今日は、少し「国会対策カレンダー」的なコラムとなったが、私は、このような事情も、できるだけ、国民の皆さんにも理解していただく努力をしていきたい。