国の借金千兆円超が招く危機(2)~今こそ必要な構造改革

2010-2-13

新規借入金をゼロに近づけた小泉改革

最近、自民党の側が、現政権の「国債増発・バラマキ路線」を批判すると、民主党サイドから、「これまで借金を増やしてきたのは、自民党政権ではないか」との反論に遭うことが多い。
確かに、小渕・森政権下、国の借金は雪だるま式に増え、麻生政権では、リーマンショック後の世界同時不況への対策で、史上最大の国債を発行せざるを得なかった。
ただ私は、国会論戦でも、またマスコミの論調でも、小泉・安倍・福田政権において、「構造改革」の旗印の下、国の借金を増やさない努力が実を結びつつあったことが、ほとんど指摘されていないことが不思議でならない。
そして、民主党の側からも、自民党の側からも、「小泉構造改革は格差を拡大し、地方を疲弊させた」と、構造改革の負の側面を強調する意見は出されるが、「小泉構造改革」を、正面から正当に評価しようという論陣は、今のところ張られていない。
しかし、国の借金千兆円超という事態が現実のものとなりつつある今だからこそ、わが国の将来のために、「構造改革路線」が必要なのではなかろうか。(小渕・森政権下での借金拡大)

拓銀や山一証券の破綻などの「金融恐慌」に対処するため、橋本内閣の後を受けて発足した小渕政権(自自連立、後に自自公連立)は、小渕総理が、「世界一の借金王」と自嘲気味に語ったように、緊急、かつ、大規模な財政出動路線をとった。
この基調は、小渕総理の急死を受けて発足した森政権(自公連立)においても変わらなかった。
そして、この時期、橋本内閣編成の平成9年度予算では(平成10年3月末)395兆円だった国の借入金残高は、小渕政権が編成した平成12年度予算では(平成13年3月末)538兆円、森政権が編成した平成13年度予算(平成14年3月末)では607兆円と、わが国のGDP約500兆円を大きく上回るまで急増することとなった。
そして、年間70兆円も国の借金が増えるようなペースがあと数年続けば、「悪夢の借金千兆円超」も視野に入ってくる事態となってしまったわけだ。

ところで、民主党政権の皆さんは、このような「借金体質」を作った責めは、全て自民党にあり、現政権や与党の構成員の責任は全くないかのような言い方をされるが、それは明らかな誤りだ。

小渕政権下、大規模な経済対策・財政出動に熱心だったのは、むしろ連立のパートナーであった自由党であり、その党首は、現在民主党幹事長の小沢一郎氏だ。
森政権下、党高政低と言われる中、経済対策とりまとめの責任者として大きな発言力を持っていたのは、当時自民党政調会長の亀井静香氏で、氏は、現在、現政権の金融担当大臣だ。
もっとも、ここで私は、「誰の責任」と言うことを論じるつもりはない。
でも、民主党の皆さんの心の片隅に、「これまで数百兆円の借金をしたのは自民党が悪いのだから、政権交代後の俺たちが数年間借金を増やしても罰は当たらない」といった気持ちがあったとしたら、それは事実と異なるし、国を危うくする考え方だ。

(借入金残高前年比マイナスを達成した小泉構造改革)

平成13年4月、森内閣の退陣を受けて成立した小泉政権は、「構造改革なくして景気回復なし」を掲げ、国債の新規発行も、30兆円以内に抑える方針を打ち出した。
もとより、「経済は生き物」であり、改革の当初こそ、30兆円を超える国債を発行する場面もあったが、冒頭の図のとおり、この構造改革により、平成15年以降は、対前年比借入金残高の増は縮小傾向に転じる。
小泉政権が編成した最後の予算である平成18年度予算(平成19年3月末)では、政府借入金を対前年比7兆円の増に止めることができ、さらに、福田政権が編成した平成20年度予算(平成21年3月末)では、政府借入金残高の対前年比マイナス(3兆円)を達成、「国の借金千兆円超回避」の努力が実を結ぶかに見えた。

良く、「構造改革」の断行は、「社会保障の切り捨て」や「地方の疲弊」を招いたと批判される。
私は、小泉改革に、「きめ細やかな配慮」が欠けていた面があったことは否定しないし、それはそれで是正すべきだと思う。
ただ、前回のコラムでも述べたように、国の借金千兆円超という事態は、国債長期金利の上昇などにより、毎年数十兆円の国民負担増という、「切り捨て」よりも恐ろしい事態を招きかねないわけで、これを阻止しようとした小泉構造改革の方向性自体を否定すべきではない。
小泉構造改革は、やはり、わが国にとって必要な改革だったと思う。

(麻生政権での国債増発の位置づけ)

しかし、その後の世界同時不況で、政府は再び財政出動に乗り出す。
麻生政権が編成した、平成21年度本予算と第一次補正予算は、税収の落ち込みもあり、約50兆円の新規国債増発を伴うものとなった(特に補正予算での国債増発がきいた。)。
現政権にすれば、「借金を増やしたのは我々ではない。前政権だ。自民党の方々に言われたくない。」という気持ちのようだが、麻生政権での国債増発と、現政権の国債増発は、明らかに異なる。

麻生政権が国債増発により行った経済対策は、単年度限りのもので、後年度負担は伴わず、経済が良くなれば、いつでも構造改革路線に復帰できる。
麻生政権は、これにより、構造改革路線からの逸脱を回避したわけだ(ただ、麻生総理の「もともと郵政民営化に反対だった」などの発言が、総理は小泉改革に反対だったかのように受け取られ、借金拡大路線を標榜する民主党との違いを分かりにくくした面は否めないが)。

さて、民主党の掲げる「経済対策」だが、これは、「こども手当」にせよ、「高速道路無料化」にせよ、「暫定税率減税」にせよ、毎年の恒常的支出を伴うもので、一旦借金をして政策を実施してしまったら、来年以降もずっと借金し続けなければならない代物だ。
これでは、構造改革路線に復帰するのは極めて難しく、わが国財政の破綻の危険性はますます増大する。

(今こそ必要な「構造改革」)

平成22年3月末で、国の借入金残高が924兆円と、千兆円超が現実のものとなる中、国民負担の急増を回避するためには、国の借金減らしは、緊急の課題だ。
今、借金を増やした責任を誰かに押しつけたり、ありもしない財源の議論をもて遊んでいる時ではないし、わが国にはそんな余裕はない。
民主党政権も、マニフェストを実行できないことが明らかになったわけだし、確か、総選挙の際、「公約が実行できなかったら下野する」と言われていたわけだから、わが国が、「破綻路線」をとるのか、「改革路線」をとるのか、早々に民意を問うべきだ。
そして、私は、「今こそ構造改革が必要」ということを、堂々と主張していきたい。