養豚農業振興法が成立~議員立法の重要性

2014-6-29

地域の集会で議員立法の重要性を説明

6月20日、第186回通常国会が事実上閉幕した。
前年の参議院議員選挙で、いわゆる衆参のねじれが解消、内閣提出の法律案は、81本中79本が成立した。
また、いくつかの重要な議員立法も成立した。
もっとも、私自身は、財務大臣政務官として政府の一員となっているため、議員立法の提出者となるなどの表だった役割を担うことはできなかったが、それでも、養豚農業振興法、花き振興法、児童ポルノ法など、これまでその立案に関わらせていただいてきた法律案が成立したことは、非常に良かったと思う。
今回のコラムでは、私が、自民党養豚議員懇話会事務局長として条文を作成した養豚農業振興法について述べ、議員立法の重要性を明らかにしていきたい。
養豚は、わが国の農業の中でも、養鶏などと並び、最も構造改革・規模拡大が進んでいる産業分野だ。

輸入豚肉などに押され勝ちというものの、豚の飼育頭数は、約20年間で約1割減の1千万頭弱と、微減に止まっているが、農家数は、昭和63年には5万8千戸あったものが、現在は約5千戸。
それだけ規模の拡大と経営の効率化が進んでいるということだ。もともと豚は雑食性の家畜で、東アジアの農家では、古来、残飯や糞尿を餌として、小規模に豚を飼育してきた。
ところが、これだけ規模拡大が進んだわが国の養豚は、従来型の飼育法では当然間尺に合わず、餌としては、輸入トウモロコシなどを原料とする配合飼料に頼るようになっているのが実情だ。
このような日本の養豚を、何故今「振興」しなければならないのだろうか。
背景には、農政の大転換と、「もったいない」志向の高まりがある。

わが国の米の生産は、消費の減退もあり恒常的に過剰気味だ。政府はこれまで、転作の奨励を進めてきたが、湿地帯の水田などは、畑作物への転作が難しい。
このため、私は、従来から、輸入トウモロコシの代替物として、家畜の餌となる多収穫米を生産し、水田を水田として活用することを提唱してきた(例えば、2008年7月14日付けコラム参照。)。
平成26年度予算は、この飼料用米生産への補助金を大幅に認めたものとなった。これがいわゆる「農政の大転換」だ。
これに加えて、わが国は、食糧の約60%を輸入に頼り、国内生産分とあわせ、6千数百万トンの食糧が店頭に並ぶが、うち約3分の1が捨てられているという現実がある。本当に「もったいない」話で、この問題への対処も必要だ。

この点、豚という家畜は、古来からの飼養法を見ても分かるように、雑食性で、飼料用米も、食品残さも良く食べてくれる。
そして、農政の大転換と「もったいない」志向の高まりを踏まえれば、わが国の養豚は、輸入農産物を主原料とする配合飼料に頼ってきた従来のあり方を転換し、自給飼料率を向上させるとともに、循環型社会の実現に資する存在へと、脱皮を遂げるべきであろう。
「養豚農業振興法」は、このような改革を後押しするために立案されたわけだ。
法律自体は極めてシンプルなものだが、以下、いくつかポイントを述べよう。

第1は、この法律の名称に「養豚農業」という用語を採用したことだ。
養豚の農家数は、先にも述べたように、全国に約5千戸、選挙の票という観点から見れば、必ずしも大きくはない。しかも、彼らが、輸入の配合飼料のみに頼り続けたとすれば、国内の養豚を保護し、振興する理由としては、「国内で安全な豚肉を生産する」という点以外にその理由を見出すことは困難になる。
ただ、農政の大転換との関連で、豚に飼料用米を給餌すれば、養豚は、しっかりと農地に立脚した土地利用型の「農業」ということになるし、そういう方向に、わが国の養豚を導いていく必要がある。
だからこそ私は、「養豚農業」という言葉を公的には初めて用い、わが国の養豚を、農地に立脚した産業として位置づけるという思想を明らかにした。

第2は、「国内由来飼料」という概念を提示したことだ。

カロリーベースでの食糧自給率を考える場合、家畜の肉は、たとえその家畜が国内の牧場で生産されたとしても、例えば、餌が全て外国産であれば、食糧自給率としてはゼロとしてカウントされる。
食糧安全保障の問題を考えた場合、畜産分野では、飼料自給率の向上が急務だ。
飼料用米を活用は、このような飼料自給率の向上に直結するわけだ。

もっとも、先に述べた配合飼料(濃厚飼料)は、原料の全てが外国産というわけではなく、国産の農産品も平均で約1割程度入っていることなどもあり、国産の肉豚の飼料自給率は現在9%台半ばと言われている。
これが、肉牛になると、飼料自給率が3割弱と、肉豚の3倍程度となる。
理由は、草食性動物である牛は、牧草、稲わらなどの粗飼料を食べ、タンパク質に変えることができるからだ。
このような背景から、わが国の農政の中では、伝統的に、牛の方が、豚よりも手厚く保護されてきた。
例えば、肉牛、肉豚ともに、枝肉価格が下落して生産費を割り込んだときに、生産者と国が積み立てた基金から、一定額を補填する制度がある。
その基金への拠出割合は、肉牛の場合は生産者1に対し国が3だが、肉豚の場合は、生産者1に対し国が1と、ほぼ飼料自給率の差に相当する格差がある。
養豚農家からすれば、肉牛農家と同程度の支援が欲しいのはやまやまだろうが、そのためには、飼料自給率を肉牛並に引き上げることが求められる。
これを飼料用米の活用により達成しようというわけだが、飼料用米の生産には多額の補助金が必要なことに加え、牛や鶏にかかわる農家も、飼料用米を活用して飼料自給率を高めることが予想されるため、飼料用米の活用のみで牛に追いつくことができるかどうかという問題がある(草食性の牛は、飼料用米を給餌しすぎるとお腹をこわし、養鶏の場合は、飼料用米を給餌しすぎると、卵の黄身が白くなるなどの難はあるが、一定割合の飼料用米を給餌することは十分可能。)。
加えて、現在、養豚農家は、雑食性の家畜の特徴をいかし、賞味期限切れ食品等の食品残さを餌として活用し、循環型社会の形成に寄与しようとしているが、これらは、飼料自給率にカウントされないという問題もある。
このため、養豚農業振興法では、養豚農業に対する評価方法として、飼料用米等の自給飼料に加え、もともと捨てられるはずであった食品残さもあわせて、「国内由来飼料」という概念を提示し、豚の餌に占める「国内由来飼料率」の向上を図ることとした。
将来的に、「国内由来飼料率」の向上が達成されれば、養豚農業を保護し、振興することについて、さらに国民の理解を得ることができよう。

以上2点のみ簡記したが、今回の議員立法は、国民に支持される養豚農業を作るため、生産者に対しても改革を促していこうというもので、前例を大切にする役所作成に係る法律とは、いささかおもむきを異にする。やはり議員立法でなければできなかった法律だと思う。
そこらへんが、議員立法の醍醐味ということができよう。