日本の存在感をさらに高めるために~米州開発銀行総会に出席して

2014-5-7

モレノ米州開発銀行総裁と会談

本年3月28日から4月2日までの間、私は、麻生財務大臣の名代として、ブラジルのコスタ・ド・サウイペで開催された米州開発銀行の総会に出席してきた。
6日間の出張だったが、現地は2泊のみで、後は機中泊、さすが地球の裏側、ブラジルは遠かった。
米州開発銀行は、中南米諸国の開発に資する資金提供を行うため、1959年に設立された組織で、わが国は1976年に加盟、米国に次ぐ債権国(拠出国)となっている。
初日の開会セッション前後に、モレノ米州開発銀行総裁や開催国ブラジルのベルキオール予算大臣などと会談、翌日の総務会合では、国際通貨基金理事などから、中南米経済に関する分析を聴き、その上で、私を含めた各総務が発言した。
現在、中南米諸国は、いわゆる「中進国のわな」に陥っていると言われている。これは、経済が一定のレベルに達した結果、賃金等のコストが上昇、海外からの投資が他の後発国に流れるなどのため、経済成長が鈍化するという現象だ。2日目の会合でも、中南米諸国の経済成長見通しが、アジア諸国の半分程度に過ぎない点が指摘され、米国の景気回復がプラス要素、中国の輸入の伸びの鈍化がマイナス要素などといった分析がなされた。
距離的に遠いから仕方がないと言えば仕方がないのだが、最近のG20などでは必ず話題となる、日本経済の回復という要素は、残念ながら語られなかった。
もっとも、中南米諸国が、日本に関心がないかといえばそうではなく、日本企業の投資呼び込みなどには熱心だ。

アジアと中南米では状況は異なるが、1994年から97年まで私がインドネシアに駐在していた当時、日本の存在感は、今よりも遙かに大きかった。
ただ、その後の日本経済の低迷は、徐々に日本の存在感を失わせることとなったことは否めないだろう。
加えて、わが国の貿易依存度((輸出+輸入)÷GDP)が低いという要因もある。すなわち、日本の貿易依存度は、近年上昇傾向にあるとはいえ約3割程度で、米国よりも若干高いが、中国の半分、韓国の3分の1程度にすぎず、しかも、輸入の相当部分は、中東などからのエネルギーの輸入だ。
中南米諸国との貿易面での結びつきは、残念ながら、中国ほどではないことも事実だ。

もっとも私は、だからといって、わが国の貿易依存率を急激に拡大すべきだと言うつもりはない。
現在の経済の拡大は、底堅い内需によるものであり、そのことは率直に評価すべきだ。
また、いまさら貿易額を拡大するといっても、中国と同程度のコミットメントを、中南米に対して行うことが出来るわけでもない。

それよりも、わが国が、現在でもアジア第1の中南米に対する投資国であるというポジションをいかし、対外直接投資の質と量を改革していくことが、わが国の存在感を高める上での王道だと思う。
その意味で、わが国の対外直接投資が、これまでどちらかというと製造業に偏っており、流通・運輸・外食・金融・保険などといったサービス業部門は弱かった点などは改善の余地があろう。
サービス分野の生産性の向上は、もとよりわが国にとっても大きな課題だが、中進国にとっても頭の痛い切実な問題だ。
こうした面に、わが国企業が積極的に切り込んでいくことが出来るような土壌作りが、非常に大切だ。

また、ヒトの交流も大変重要な要素だ。かつて南米からは、日系2世や3世の労働力を受け入れたこともあったが、日系人だけでは、それほどの数になるわけではない。わが国が本格的な生産人口減少時代に突入した今、EPA(経済連携協定)などを通じ、労働力としてのヒトの交流ルールをシステム的に構築することも重要だろう。

2日目の総務会合でも、私から、わが国が現在、アベノミクスを推進することにより、経済再生と財政再建の両立に取り組んでいること、日本はアジア第1の中南米への投資実績を持つ国として、中南米の経済動向を注視していることなどを発言した。
いずれにせよ、まずは国内政策で、経済成長と財政再建を両立すること、さらに、わが国の対外投資が、これまでよりも多角的に行えるような土壌をつくること、そして、ヒトの交流のしっかりしたルールを作りことなどにより、中南米地域等ともウィンウィンの関係をつくることで、わが国の輝きと存在感をさらに高めることができるのではないか。
米州開発銀行総会に出席して、私は、そんな感想を持った。