コメ農家の不安を解消へ

2014-11-30

安倍総理と

11月21日、衆議院が解散され、私も、農政関連では、「農政の大転換とTPPでの国益の確保の完遂」を主な政策に掲げることとした。
この、「農政の大転換」について、私は、農家に対し生産性向上の努力を促し、経営者としての思考をもっていただくようにしていくことは勿論と思うが、その結果、農家が、将来への希望や安心を持てるようにしていかなければならないと考えている。
ところが、全国約163万の販売農家のうち、約116万戸を占めるコメ農家から、今年の米価下落について、悲鳴が上がっている。
もっとも、米価が下落した場合の対策については、既に一応の仕組みはあるのだが、その内容が個々の農家に知られていないことに加え、実際に「減収補てん金」などの現金が農家の手元に届くのが、来年になってしまうなどのため、「本当に大丈夫か」という不安が生じているわけだ。現場の受け止めについては、もとより今後、総理官邸にもしっかりと届けていかなければならないと思うが、このコラムでは、現在のセフティーネット仕組みと、現在私たちが考えていること、今回の選挙後取り組まなければならない課題などについて述べることで、コメ農家の不安解消に役立てたらと考えている。○今回の米価下落の背景

平成26年産米は、10月時点での全国作況指数が101と、「平年並み」で、約790万トンの収量となった。
しかし、米の消費量予測が、700万トン台半ばであることに加え、前年からの民間在庫が、200万トン台半ばまで積み上がってしまったため、相場は、弱含みの展開となることが予想された。
このような情勢の中、全国最大手の米穀集荷元であるJA全農が、米を集荷する際農家に支払う概算払い金を低めに設定することとした。茨城県の場合、JA全農いばらきが決定した概算払金は、他の県よりは高い水準に設定されたが、それでも、コシヒカリで1俵あたり9千円と、昨年産米よりも2千5百円低い(概算払いの仕組みについては後述するが、概算払い制度の仕組みからして、JA全農の判断にも合理性がある。)。
この概算払い金は、最終的な米価とは異なるのだが、それでも、「流通保管経費を除く農家の手取り米価は1俵当たり1万円を割り込む」という噂が流布され、現在、コメ農家に不安が広がっているわけだ。

○「米価安」に関するいくつかの誤解

ただ、今回の「米価安」等についても、いくつかの誤解や、セフティーネット対策の仕組みがあるのだが、余り周知されていないという問題がある。

①「概算払い金」は米価ではない
9月現在、茨城県産コシヒカリの取引価格は、昨年より低いが、約11500円で、米価が1万円を割り込んでいるわけではない。JA全農の場合、取引価格から流通・保管経費を差し引いた金額が先に述べた「概算払い」よりも高ければ、その差額が、後に、「精算払い」(追加払い)として農家に交付される(来年3月末頃)。
今後米価が上昇に転じれば、「精算払い」が上乗せされるわけだが、26年産米の作況は平年並で、豊作とまではいかないことから、投げ売りや売り急ぎさえなければ、米価回復の可能性は相当高い。

②向こう5年間、直接支払交付金が支給される
かつて、10㌃当たり1万5千円が支給されてきた交付金は、なくなったわけではなく、飼料用米の生産拡大などによる需給調整が軌道に乗ると考えられる向こう5年間、10㌃当たり7千5百円が支給され、平均収量に換算すると、米1俵当たり千円弱がかさ上げされることになる(支給時期は12月末)。

③「減収補てん」の仕組みがある
その上で、米価が過度に下落した場合、減収分の一部を補てんする仕組みがある。
まず、一定規模以上の農地を耕作する農家を対象として、国が3、農家が1の割合で積み立てた基金から、過去5年間の平均的な収入と、本年の収入の差額(減収分)の9割を補てんする制度がある。
そして、それ以外の農家については、減収分の約34%に当たる交付金が、国から支給される。
例えば、過去5年間の平均的米価が1俵1万5千円、本年産米が1万3千円の場合、1俵当たりの補てん金として、前者の農家については1千8百円、後者の農家についても約7百円が支給される(支給時期は来年の5~6月)。

これをイメージにまとめたものが、農林水産省作成の、「茨城コシヒカリのイメージ(26年産米)」だ。
http://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/soukatu/pdf/08ibara_1002.pdf

もっとも、以上のような制度はあるものの、それが知られていないことに加え、追加払い金、交付金、減収補てん金が、コメ農家のもとに届くのが、「いかにも遅い」という問題がある。
これに対処するのが、政治の役割だと思う。

○具体的に何をしなければならないか

①「追加払い」をできるだけ早く
「精算払い」が農家の手に届くのは、現状では来年の3月末。その頃には27年産米の作付準備が始まっており、資金繰りが極めて窮屈となることが予想される。
このため、「追加払い」は、精算を待って行うのではなく、できるだけ早く、精算前の時期であっても、概算的に行っていただくよう、JA全農に働きかける努力が必要だ。

②米の直接支払交付金の支払い時期をできるだけ早く
5年間の措置とはいえ、10㌃当たり7千5百円の交付金も、コメ農家にとっては貴重な資金だ。これが年末ギリギリに交付されたのでは、農家も資金繰りに困ってしまう。
このため、少なくとも12月前半までには、コメ農家の手元に届くように、現在準備をしている。

③減収補てん金の実質的前倒し交付
先に説明したコメ農家の減収補てん金(いわゆる「ナラシ対策」等)は、理屈の上では、26年産米の価格が年度末に確定されてから、補てん水準が計算されるため、コメ農家に対する交付時期が来年5~6月と、来年産米の田植えが終わってからとなってしまう。
今のところ、これを実質的に前倒し交付するため、コメ農家に、政府系金融機関が、減収補てん金相当額(見込み額)を無利子で融資し、減収補てん金の交付時に、融資を清算する方法を考えている。
総選挙後は、この前倒し交付を、コメ農家に、過度に煩瑣な手間を課すことなく、いかにスムーズに実現していくべきか、政治として知恵をしぼらなければならない。

○今後の課題

このように、まずは、コメ農家に、「早期に交付すべきお金が届く」ようにして、農家の「当面の安心」を確保することが大切だ。
その上で、
・農政の大転換により、飼料用米の作付拡大などでの需給調整を行うことで、将来的な米価安定が可能と思われること。
・減収補てんについては、来年から、「一定規模以上の農地を耕作」という面積要件を撤廃したため、希望する農家には、セフティーネットが確保されていること。
などを根気よく説明し、農家の「将来への希望」を創っていくことが必要と思う。