延長国会と法務委員会~会期末まで忙しい日々が続く

2015-8-31

法務委員会での答弁


国会は、6月末に、95日間の大幅延長が議決され、会期は、9月27日までとなった。
これは、いわゆる平和安全法制の確実な成立を期すためと報道されており、現実に、テレビの国会中継は、平和安全特別委員会が中心だ。
このため、マスコミの報道を見ていると、延長国会で審議が行われているのは主に平和安全特別委員会で、他の委員会は、何か消化試合のような印象を持たれる方も多いと思うが、積み残しの法案を数多く抱え、会期末までに、政府提出の重要法案の成立が危ぶまれる委員会も存在する。

それが、厚生労働委員会と、わが法務委員会だ。
かつて私が警察庁に勤めていた頃は、法務委員会といえば、提出法案も少なく、比較的時間に余裕のある委員会と言われていた。
そのころから考えれば、隔世の感だ。

もともと、今通常国会には、法務省からの提出法案は10本と、数自体も例年になく多かった(政府全体では75本)。
加えて、後述するように、内容的にも重たい法案が多い。
そんな中、通常国会が開会してから7ヶ月を過ぎた8月末現在、成立を見た法律は4本、衆議院を通過した法案が1本と、法案の数だけを見ても、半分に至っていない。

理由は、平和安全法制の国会運営で、国会が空転した時期があったことに加え、先に「内容的に重たい」と述べた法案の1つである刑事訴訟法の改正に、相当な審議時間を要したことなどによる。

そこで、主にどのような法案が成立せずに残っているか、少し触れてみよう。

第1は、先に衆議院を通過した刑事訴訟法の改正案。
刑事訴訟法は、刑事事件の捜査・公判を規律する法律で、昭和23年に制定されたが、今回の改正は、制定後67年間で最も大きな改正と言われている。本会議での趣旨説明質疑対象となる重要法案だ(いわゆる「登壇もの」)。
内容は、一部の事件の取り調べについて録音・録画を義務づけたり、通信傍受の捜査手法を改正したり、被疑者国選弁護の範囲を拡大する等々、非常に多岐にわたる。改正内容は法務省のHPに詳しいが、衆議院法務委員会では、参考人質疑を除き、68時間の審議を行い、自民・公明・民主・維新の4党による修正を経て可決、参議院に送付された。
ただ、会期末まであと1月を切ったが、参議院法務委員会での審議は始まっていない。

第2は、外国人の技能実習生や高度人材としての介護福祉士の受け入れを可能とする、外国人技能実習適正化・技能実習生保護法案(新法)と入国管理法の改正で、「登壇もの」の重要法案だ。
これは、わが国の成長戦略の1つとして位置づけられ、わが国の経済社会をよりオープンなものとし、技能実習を通じた国際貢献を進めるとともに、専門的な人材として、介護福祉士の資格を取得した外国人留学生の就労を認めることなどを内容とするものだ。
アベノミクスの一翼を担う法案であり、その速やかな成立が望まれるが、現在、9月3日に、衆議院本会議での趣旨説明・質疑が予定され、ようやく衆議院で審議入りすることとなる。会期末まで後1月を切り、その行方が注目される。

第3は、資力の少ない者等に対する法律援助を行う法テラスの業務の拡充を内容とする総合法律支援法の改正だ。
具体的には、いわゆる認知症の方や大規模災害被災者の方等への援助の拡充を内容としているが、現在、審議入りのメドは立っていない。

第4は、債権法の大改正を内容とする民法改正及び関連法律の改正で、これも「登壇もの」の重要法案だ。
現行民法は、1896年に物権・債権法等が、1898年に家族法等が制定されたが、その後大きな改正はなかった。
今回の改正は、債権法部分について、大幅な規定の整備を行おうとするもので、「制定以来120年ぶりの大改正」と言われている。 その内容も、先に述べた刑事訴訟法同様に多岐にわたるが、身近なところでは、賃貸住宅の「敷金」が初めて明文で規定されたり、飲食店の「つけ」の時効がこれまでの1年から、他の債権の時効と同じ5年となる等々、興味のある方を法務省のHPを見ていただきたい。

「民法」は、経済取引の基本原則であり、今回の改正でも、従来判例で積み上げられてきたものを法律上明文化するという改正事項も多いが、わが国に対する海外からの投資を促進するためにも、このような「民法典の近代化」は必須で、アベノミクスの基礎的なインフラを担うものといえる。
その意味でも速やかな成立が望まれるのだが、こちらも審議入りのメドは立っておらず、報道によれば、「今国会での民法改正実現は絶望的」とされているようだ。

このように、本数的にも多く、また、内容的にも重要な法案審議が積み残しとなっているのが、法務委員会の現状だ。
しかも、法務副大臣の場合、衆参の法務委員会開催中は、必ず答弁席にいなければならず、拘束時間も極めて長い。
それでも、会期末までに、できるだけ法案審議をこなさなければ、今述べたような法案は、どんどん積み残しとなってしまう。
だから、この国会は、会期末ぎりぎりまで、地味ではあるけれど、緊張感を持って委員会審議に臨む必要がある。