「遺言控除」の検討を提案

2015-7-30

「遺言控除」の検討を提案

7月8日の自民党「家族の絆を守る特命委員会」(委員長:古川俊治参議院議員)、私から、「家族の絆を守る税制について」講演を行い、その中で、「遺言控除の創設」について、是非同委員会で検討して頂きたい旨の提案を行った。
私は現在、法務副大臣の職にあるが、この日の講演は、省を代表してではなく、1人の政治家の立場で、自民党における議論を促したものだ。
さて、遺産分割を巡り争いとなる件数は、増加傾向にある。
遺産分割が調停や審判に持ち込まれた件数だが、平成25年は1万5千195件で、平成8年の1万194件、昭和60年の6176件と比べ、かなりの増加ぶりだ。
このように、「相続」が、「争続」となってしまうようでは、「家族の絆」を守れるはずもない。
「遺言控除」の検討は、このような紛争リスクの回避に資するものと考えられるが、それだけでなく、既存ストックの活用や在宅介護等の促進にも寄与し得るものと考えられる。(何故税制なのか)
何故今税制なのか、これは、本年から、相続税を納める方が格段に増加することが見込まれることが大きい。

相続の世界でも、「税制上の優遇」が、有効な政策ツールとなり得るようになったわけだ。
平成26年まで、相続税の基礎控除は、5000万円+相続人数×1000万円だった。相続人が3人の場合、8000万円以下の遺産総額の場合は非課税ということだ。
このため、平成25年中、相続税を納めた遺産相続の割合は、全ての遺産相続の中で、4.3%だった。
これが、平成27年から、相続税の基礎控除額が3000万円+相続人数×600万円となった。
相続人が3人の場合、4800万円を超える遺産総額については、相続税がかかるようになったわけだ。
これに伴い、納税義務者の数も、1.4~2倍程度増加するのではと言われているようだ。

(わが国の遺言の状況)
次に、わが国における遺言の作成件数だが、日本公証人連合会によれば、公正証書遺言の作成件数は、平成24年が8万8千156件と、この20年間で約1.9倍と、着実に増加しているものの、相続関係専門の税理士の方に聞き取りを行ったところ、遺言に基づく相続は、2~3割程度ではないかということだ。
そして、専門家と相談したしっかりした遺言の場合、紛争リスクを回避する効果が見込めるのではとのことだった。

(「遺言控除」を検討する場合の制度設計)
「遺言控除」を検討する場合、その設計は、全ての相続人が同意した有効な遺言に基づく相続が行われた場合、基礎控除に一定額を上乗せするということになるものと考えられる。
相続税の税額は、10%から55%なので、仮に基礎控除の上乗せ額が300万円の場合、30~165万円が税額控除になるというわけだ。
ちなみに、米国では、わが国と異なり、遺産相続は裁判手続きにより行われ、相当な負担となっているらしいが、遺言書を作成することで、この裁判手続きにの負担を軽減することができるため、遺言を作成する方が、わが国よりも格段に多いという話だ。

(「遺言控除」により見込まれる効果)
「遺言控除」により、有効な遺言の作成が促進されることとなれば、次のような効果が見込まれよう。

第1は、先に述べたように、「争続」のリスクを回避に寄与すること。
遺産分割に伴う家族間の紛争は、ある意味で、「家族の絆」以前の問題だ。
ただ、「遺言」があったからと言って、争いが全く回避できるわけではない。わが国には、たとえ遺言があっても、相続人は、「遺留分」を主張することができるし、また、遺言の内容があいまいな場合等、遺言そのものの有効性について争いが生じる可能性もある。
もっとも、全ての相続人が同意した有効な遺言でなければ、そもそも優遇対象とはできないという制度設計にすれば、争いのある遺言は対象から除くことができるわけだが、いすせれにせよ、紛争リスクの回避に資する遺言の具体的な作成方法等について、さらに議論していく必要があろう。

第2は、親の面倒を見たり、家やお墓を守る相続人を優遇することができること。
先に述べたように、わが国の相続法制では、相続人は、「遺留分」を主張することができるが、「遺留分」は、法定相続分の2分の1なので、遺言を作成することにより、一定の相続人に、法定相続分以上の遺産を相続させることが可能である。
このように、有効な遺言の作成が促進されれば、親の面倒を見たり(在宅介護等)、家やお墓を守る義務を負う相続人を、遺産相続の局面で優遇することが可能になる。

第3は、空き家対策に資するなど、既存ストックの活用が図られるのではということだ。
遺産分割の協議でもめるのは、やはり不動産が多い。
例えば、土地付き一戸建てで遺産分割協議が整わなければ、その不動産は相続人間の共有ということになるが、これでは、不動産の処分が進まないだけでなく、空き家のリスクも高まってしまう。
やはり、あらかじめ、将来に向けたストックの管理方策を決めていくことが大切なことだろう。

(今後の党における議論を期待)
政策的な税制は、基本的には党税調マターとなる。
このため、私としても、今後の党における議論に大いに期待したい。
もとより、「遺言控除」の検討については、残された制度設計上の課題もある。

すなわち、まず、「紛争リスク回避に資する有効な遺言」を、どのように範囲に絞るかという問題だ。
一定の専門家を絡ませるべきという議論も出てこようが、今後検討すべき課題であることは間違いない。
また、相続税の課税対象とならない相続でも、遺言が必要ではという議論も当然あろう。遺産分割が争いになり家庭裁判所の調停・審判に持ち込まれた件数のうち、4分の3は遺産総額が5千万円以下だからだ。
今後わが国で、「遺言」が一般化することとなれば、「有効な遺言」についてのノウハウが蓄積され、その作成コストも低減されることも考えられるが、いずれにせよ、今後の党の議論に注目していきたい。