憲法改正国民投票法案~与党案と民主党案はどう違うか

2006-6-9

本会議場での答弁の模様

6月1日の衆議院本会議。
自民・公明と、民主党の双方から提出された憲法改正国民投票法案が審議入りした。
国会の場で、戦後初めて、憲法改正に関する議論が行われた歴史的な日だ。
私も、与党案の提出者として、本会議場の閣僚席に座り、いくつかの論点について答弁に立った。
15日には委員会審議も行われる予定で、今後、さらに国民の関心が高まることを期待したいが、この法案、与党案と民主党案で、どのような違いがあるのだろうか。
実は、この問題については、中身の議論が余り報道されず、「与野党の協議が暗礁に乗り上げている」、「小沢代表は法案一本化に消極的」といった、政局がらみの話題として取り上げられることが多かったため、双方の考え方に大きな違いがあるように思われ勝ちだ。
しかし、実のところは、内容的に先鋭な対立があるわけではない。

加えて、この法案は、将来の国づくりに密接に関わるものであり、本来、政争の具とすべき性質のものではなく、私自身は、与野党のかけひきに翻弄されている現在の状況を憂うる1人だ。
そこで今日は、原点に立ち返って、与党案と民主党案の、中身の違いについて書いてみたい。まず言えることは、憲法改正国民投票制度についての基本的考え方は、与党案も、民主党案もほとんど変わりがないということ。
両案とも、投票日一週間以内の商業CMの禁止以外は、マスコミ規制は設けていないし、憲法改正の発議を行う憲法審査会の規定、憲法改正発議案について広報を行う憲法改正案広報協議会の規定などは、全く一緒だ。
ただ、いくつかの点で考え方の相違がある。
以下、主な相違点を4つ述べてみる。

まず、投票年齢。
与党案は、選挙権年齢と同じく20歳以上としているが、民主党案は、18歳以上としている。
ただ、この問題は、成人年齢をどこに設定するかという問題とも密接に関わってくる。
確かに今、全世界的には、選挙権年齢を18歳以上とする国が、大勢となりつつあるが、これらの国では、成人年齢の方も、18歳以上としている。
また、かつてスイスでは、選挙権年齢を20歳から18歳に引き下げる案件が、国民投票により一旦否決された後、成人年齢を18歳とするといった法体系の見直しを行った上で、最近、選挙権年齢を18歳に引き下げることとしたという。
このように、投票年齢・選挙権年齢の引き下げは、私自身も、将来の方向性として検討すべきとは思うが、現状の法体系との整合性を考えると、まずは20歳でスタートすることが現実的なような気がする。

次に、賛否のカウントの方法。
与党案では、投票用紙には、賛成は○、反対は×と記し、白票は無効にカウントすることとしているが、民主党案では、白票は反対票になる。
憲法改正国民投票の具体的イメージを考えた場合、1つの投票所で、例えば、「安全保障」、「基本的人権」、「国会の構成」などといったいくつかの事項ごとに、何枚かの投票用紙を用いて投票を行うことが想定される。
そこで、例えば、「安全保障」については賛成だが、「国会の構成」についてはどちらでもよいという方は、「安全保障」については賛成票、「国会の構成」について白票を投じることが考えられるが、この場合の白票をどう評価するかで、カウントの仕組みが異なってくる。
ちなみに私は、国民の意思を正確に反映する意味から、「どちらでもよい」という意思については、無効票扱いにすべきではと考えている。

第3に、買収罪などの規定の有無。
与党案は、要件を絞った形で、国民投票に関し、「組織的多数人買収」などの行為を罰することとしているが、民主党案にはその規定がない。
国民投票運動は、もとより、できるだけ自由にわれるべきと思うが、公正な国民投票を確保する上からは、必要最小限の規律はおいておかなければならないのではなかろうか。

第4は、憲法改正以外の政策課題について、国民投票制度を創設するか否か。
与党案では、国民投票制度の創設は、憲法改正に限定しているが、民主党案は、一般的政策課題についても、国民投票制度を創設することとしている。
私自身、昨年欧州各国を歴訪し、この問題についての調査を行ってきたが、「一般的国民投票」という直接民主制的手法を生半可な形で導入すると、独裁やポピュリズムの危険があることを肌で感じた次第だ。
だから、わが国においては、まず憲法改正国民投票について国民投票制度を構築し、「国民投票」という政治文化が国民の中に根付いた段階で、「一般的国民投票制度」の導入を検討すべきではなかろうか。
実際、例えばオーストリアの国民投票制度も、そのような歴史をたどっている。

以上、4点の相違点を述べたが、実のところ、与党案と民主党案、その違いは、言われているほど大きくはない。
敢えて違いを言えば、現実的に動く仕組みの構築を重視するか、将来的な理想の宣言を重視するかというところか。
ただ、制度を構築する以上は、将来の理想は掲げつつも、やはり、実務的に堪えられるものとしていくことが肝腎だ。
今後の委員会での議論などで、わが国の政治文化の現状を踏まえた、良い形での国民投票制度が構築されることを願ってやまない。