インド洋給油新法・衆議院の再可決で成立~首の皮一枚つながった日本への信頼

2008-1-18

賛成票を投じる葉梨康弘

1月11日の衆議院本会議。
この日の午前中に参議院本会議で否決された、いわゆる「インド洋給油新法」が、自・公の与党のほか、何人かの無所属議員の賛成により、出席議員の3分の2の賛成を得て衆議院で再可決、成立した。
衆参両院の議決が異なる法律案について、憲法第59条第2項の規定により、衆議院が優越権を行使したのは、実に57年振りのことだ。
ただ、我が国が、「テロとの戦い」から離脱する期間が少しでも長引くと、後でも述べるように、国際社会が日本という国に寄せる信頼を大きく損ないかねない。
その意味で、私は、11日の再可決は、やむを得なかったと思うし、日本が、自国民の命を守ることができる国であることを、滑り込みセーフで、世界に示すことができたと考えている。まず、イラクへの復興支援協力と、アフガニスタン関連の給油活動への参加が、テレビなどで、「いずれもアメリカへのお付き合い」などと、ごっちゃにされてとりあげられることがあるが、これは、明白かつ重大な誤解だ。
すなわち、当時のイラクの大統領、サダム・フセインは、確かに大変な独裁者であったが、1人の日本人も殺害していない。
しかしながら、タリバン・アルカイダは、明らかに、日本国民を狙った大量殺害行為を敢行した。

先のコラムでも述べたように、2001年9月11日当時、ニューヨークの世界貿易センタービルには、20社の日本企業が事務所を構え、350人の日本人が働いていた。
そして、あの日、彼らを殺害する明確な目的を持って操縦された飛行機が衝突、結果として、24人の日本人が犠牲になった。
もとより、ニューヨークは世界経済の中心、犠牲者の中には、日本人だけでなく、英、仏、独など、主要国の国民も含まれていた。

だからこそ、イラク開戦には最後まで反対したフランスやドイツも、タリバン・アルカイダとの「テロとの戦い」には、当初から積極的に参加した。
自国民が犠牲者となっている以上、当然と言えば当然だ。

さらに、現在大統領予備選が行われ、クリントン・オバマら有力候補が、「イラクからの撤退」の主張で足並みをそろえる米国民主党陣営も、アフガン作戦については例外なく支持を表明している。
最も多くの犠牲者を出したのは、いうまでもなく、米国だからだ。

今、アフガニスタンにおいて、タリバンは、なお、地域的な政権としての実態を保ち、アルカイダも、テロ行為の継続を繰り返し表明、国際社会を挑発している。
だからこそ、引き続き、各種の作戦、警戒活動が展開されている。

このように、「テロとの戦い」が継続する中、我が国が、憲法上も許された貢献であるインド洋での給油活動から手を引いたら、どういうことになるか。
まず、「日本は、日本国民が殺されても、悔しいと思わない、何の痛痒も感じない、『国家の名に値しない国家』である」ことを、全世界に示す結果とはならないか。
さらに、これまでのコラムでも述べたように、「例えば、日本の民主党の某有力議員は、北朝鮮による拉致問題は明かな国家テロであり、『金正日を法廷に引っ張り出せ』と言っているそうだが、同じ党のアフガン問題への態度を見ると、このような主張は、日本人の、朝鮮民族に対する特殊な感情から出ているのではないのか」ともとられかねない。
非常にゆゆしき事態だ。

日本国憲法施行後61年、我が国は、名実ともに、「平和国家」の道を歩んできた。
今後もその道を変えることはあってはならない。
しかし、「平和国家」であっても、とり得る全ての手段を用いて、自国民の命を守ることは当然のことだ。
その意味で、11日の給油新法再可決は、責任与党として、「平和国家日本の心意気」を示すことができ、国際社会の我が国に対する信頼を、首の皮一枚つなぎ止めることができたということができよう。