もっとインドネシアに注目しよう~中国・インドに劣らぬ真のパートナー

2008-8-7

ユドヨノ・インドネシア大統領とも会談

この7月、私は、山崎拓・日本インドネシア友好議員連盟会長を団長とする衆議院インドネシア訪問議員団(5名)の一員として、ジャカルタで開催された日本インドネシア政治家間対話セミナーに参加してきた。
訪問日程は、23日の昼に成田発、夜当地着。24日午前に副大統領と会談、午後はセミナー。25日午前に在留邦人と懇談、午後は大統領と会談、その日の深夜に当地発。26日早朝成田着というあわただしい日程だった。
私自身、94年から97年まで、ジャカルタの日本大使館に勤務していたご縁で、議連の事務局次長を務め、今回の訪問団に加わったわけだが、この日程では、当時のことを懐かしむ時間もなかった。
ただ、今回の訪問で、改めて、インドネシアが、わが国にとって、中国やインドに劣らない重要なパートナーであることを痛感した。中印の台頭が言われる中、わが国の国益のためにも、政治・経済の両面で、インドネシアと、より強固な関係を築くことが極めて重要だ。インドネシアというと、わが国では、スマトラ沖や中部ジャワの地震のニュースだとか、イスラム国家ゆえのテロのニュースだとかが報道されることが多いようだが、報道と実態とは、相当異なる。
この数年、社会的な安定を確実に取り戻しつつあるし、何よりも、インドネシアは、紛れもなく、東南アジアの大国だ。

まず、人口が2億4千万人と、中・印・米に次ぎ世界第4位、わが国の約2倍(東南アジア諸国連合(ASEAN、10カ国)全体の42.6%)。
さらに、面積が約190万平方㌔と世界15位、わが国の約5倍(ASEAN全体の42.8%)。
GDPこそ約4千億ドルと世界21位(世銀)、わが国の10分の1以下だが、それでも、ASEAN全体の3分の1強を占める。

しかも、インドネシア自身が原油・天然ガス・銅などの産出国であることに加え、中東からわが国へ原油を輸送するタンカーたちは、例外なく、インドネシアの領海であるマラッカ海峡かロンボク海峡を通過せざるを得ない。

このような地政学的重要性に加え、インドネシアは、わが国と価値観を共有する真のパートナーとしての、多くの条件を備えている。

第1は、「世界最大(人口)のイスラム国家」とはいえ、政治経済的には、いわゆる「世俗主義」をとっており、原理主義的イスラム国家に見られる窮屈さがないということ。
確かに、メガワティ政権下の1時期、イスラム過激派によるテロ事件が発生したが、現ユドヨノ政権になり、テロ事件の発生はなく、治安も比較的良好に保たれている。

第2は、確実な民主化のプロセスの中にあるということ。
私がジャカルタに駐在していた当時、インドネシアは、スハルト大統領の「開発独裁」の絶頂期にあった。
当時、「国会議員」と言っても名ばかりで、インドネシアにおける典型的な出世コースは、陸軍士官学校から陸軍幹部になり、将軍で退役して大臣になるというものだった。
これが、98年のスハルト退陣後、民主化へと大きく舵を切る。
もとより当初は混乱もあったが、10年を経て、インドネシアにも、民主的な価値観がようやく定着しつつあるように見える。
今回の、両国国会議員による「政治家間対話セミナー」のような試みは、少なくとも私が駐在していた当時、全く考えられなかった。
なぜなら、当時、インドネシアに存在した「政治家」は、非常に極端な言い方をすると、スハルト大統領ただ1人で、それ以外は、「形式的な国会議員」か「活動家」でしかなかったからだ。
今回、両国国会議員による政治家間対話が行われ、投資の促進等の問題について率直な意見交換が出来たことは、まさに隔世の感があるし、インドネシアが、わが国と民主主義的価値を共有する大切な存在であることを、我々に印象づけた。

第3は、東アジア諸国の中でも、比較的良好な対日感情を持つことで知られている上、他の東アジア諸国と比べ、中国の政治的影響力が相対的に大きくないということ。
先の大戦時、インドネシアは、日本の軍政下に置かれた。
その軍政から施政権を引き継いだスカルノ大統領が、45年8月17日に独立を宣言、49年まで、オランダとの独立戦争を戦うことになるが、当時、2000人を超える日本兵が、インドネシア独立のために戦ったという。
もとより、わが国の軍政下にあったわけだから、対日感情という意味でマイナス要因があるのも事実だが、それでも、これら先人の努力により、インドネシアにおける対日感情は、他の東アジア諸国と比べると、極めて良好だ。
また、他の東南アジア諸国と同様、中国系インドネシア人が経済の大半を握っているとはいえ、人口は全体の3%に過ぎず、政治的発言力は限定的でしかない。
そして、中国と地続きであるインドシナ諸国・朝鮮半島や中国系の人口が約4割と言われるマレーシア等と比較すると、昨今台頭しつつある中国の政治的影響力は、相対的に大きくない。

これらの条件を考えると、東南アジアの大国であるインドネシアとの友好関係を強固なものとすることが、わが国の将来にとって極めて重要なことは自明なことだろう。
ところが、最近、わが国からインドネシアに対する投資額が落ち込んでいるという(中国やベトナムに流れているらしい)。
このことが、政治家間対話セミナーでも主要議題となり、セミナーは、侃々諤々、4時間を超えた。
この問題については、インドネシアに対し、電力等のインフラ整備などの投資環境の改善を促す一方、わが国においても、もっと、インドネシアという国の重要性をアピールする努力をしなければなるまい。

だからこそ、このセミナーで、私は、次のような発言を行った。
「最近のインドネシアが、年率6%の経済成長を達成していると聞き、わが国企業の投資先として、少なくとも損にはならないということは理解できる。
ただ、投資を呼び込むためには、投資先としての付加価値をアピールすることが重要だ。
すなわち、私も含め、インドネシアに駐在した日本人のほとんどが、インドネシアのファンになるという、暮らし安さ、対日感情の良さ、ホスピタリティーなどを、もっと日本国民向けにアピールしていかなければならない。
その意味で、両国の国会議員がこのようなセミナーを持つことは極めて重要で、本日をスタートラインにして、このセミナーを、両国政府・国民に対し、より大きな発信力を持つものとしていくことが大切だ。
ただ、インドネシアにおいては来年4月、わが国においても、来年9月の任期満了前に、総選挙が予定されている。
このセミナーの発信力を強化していくためにも、本日の会議に出席した両国・超党派の、全ての議員の皆さんが、来る総選挙において、必ず当選されるよう、強くお祈りするものである。」
最後の発言で、会場は大いに沸いた。やはり国会議員同士、考えることは同じらしい。