日本はどこまで後退するのか(2)~「バラマキに手を染めた『古い自民党』」に輪をかけた民主党

2010-3-26

葉梨康弘の質問に答える

前回コラムで述べたように、バブル崩壊後、「自助」を重視してきた本来の保守政治が影をひそめ、当初は緊急避難的措置としてとられたバラマキ路線が定着するようになってしまった。
そこに「癒着」が生まれ、国民は、自民党政治に対する「飽き」を感じるようになる。
この時期の自民党政治は、若々しかった戦後復興期の保守政治と異なる、「古い(あるいは『老いた』)自民党」と言うことができると私は思う。
このような「古い(老いた)自民党」との訣別を宣言したのが、小泉純一郎元総理だった。
「聖域なき構造改革」の旗印の下、各種の予算は、例外なく、一律カットの対象となり、この時期、「税金のムダ遣い」の排除も加速度的に進んだ。
現在政権にある民主党の方々は、小泉政権の発足時、「母屋でおかゆ、離れでスキヤキ」(塩川正十郎元財務大臣)と評された「特別会計」に対し、私たちが徹底的なメスを振るった事実を知らないで、「『事業仕分け』でもすればカネはいくらでも出てくる」と思いこんでいたふしがある。
結果は、絞れるお金はほとんどないことに、どうも今になって気が付いたようだ。(小泉純一郎元総理が持っていた「厳しさ」)

もっとも、小泉元総理が、「任期中消費税は上げない」と宣言してしまったせいもあり、小泉内閣の5年間、相当過激な予算カットが行われることとなった。
また、年金改革や農政改革など、複雑な制度なのに、その転換を急ぎすぎ、現場への説明不足による混乱を来した改革もあった。
そして、医療関係者、介護関係者、年金受給者、農業者、建設事業者等から、相当な悲鳴や怨嗟の声が上がっていたことも事実だ。

ただ、改革のスピード、あるいは、セフティネットの構築の問題はあったにせよ、自助の精神を大切にする思想は、まさに本来の保守政治だ。
真面目に努力した者が、そうでない者よりも多くの果実を受け取るのは当然のことで、これを「格差」というならば、「格差のない社会」とは、「真面目に努力した者が報われない社会」と同じだ。
私たちは、「格差のない社会」を作ることよりも、失敗した者にも再びチャンスを与えるとともに、貧困の境遇に置かれた方にはしっかり手を差し伸べる、「チャンスに満ちた貧困のない社会」を作るべきだと、改めて思う。

小泉純一郎元総理は、かつて、予算委員会での私の質問に対し、「格差はどこの社会でもある」と言い切られた。
バラマキに慣れた政治家には発言できないフレーズだ。
私の予算委員会での初質問だったが、このとき私は、先の池田元総理の「貧乏人は麦を食するという考え方もある」という発言同様、小泉元総理の厳しい政治姿勢に感服したことを憶えている。

(民主党政権による「よりたちの悪い」バラマキへの回帰)

民主党は、昨年の総選挙で、悲鳴や怨嗟の声を上げる有権者に対し、「特別会計の官僚利権などを削れば、増税や借金をしなくても、あなた達に良い思いをさせてあげる。」という期待を持たせ、「そこまで言うなら一度やらせて見よう」という声をバックに、衆議院での圧倒的多数を獲得した。

しかし、平成22年度の予算を見る限り、確かにバラマキの部分は増えたが、彼らが思っていたような「政治家・官僚利権」はなかったことが分かり、結局は、「古い自民党」もさすがにやらなかった大量国債発行に踏み切ることになった。
これは、「古い自民党的色彩」をもっとどぎつくしたようなものだ。

そして、政策の内容は、「古い自民党」よりもさらにタチが悪いかも知れない。

民主党は、「コンクリートからヒトへ」というスローガンを掲げているが、建設業総売り上げ125兆円(うち国の公共事業7兆円)のうち、コンクリートの原材料費はその6%の約8兆円にすぎず、アトの94%は人件費や設備投資という形で、ヒトに対して使われており、経済の拡大に寄与している。
公共事業費だけでなく、例えば研究開発費などを削減することは、今までこれを受注してきた企業の人件費、すなわち、世帯主の職場を奪うことに、私たちは気づかなければならない。
さらに、一方で事業費を削減しておいて、民主党議員が当選した選挙区に事業を手厚く配分するという利益誘導。
まさに「よくやるよ」という感じだ。

そして、事業費を削減し、さらに大借金までつくって実現した民主党の「こども手当」。
民主党政権は、手当の7割は消費に回るはずだから、子供の教育支出増に加え、経済拡大効果もあると主張しているが、NHKの調査では、手当の6割が貯金に回るとのことで、これでは経済効果はほとんど見込めない。

これを見ると、「コンクリートからヒトへ」というスローガンは、結局、「コンクリートに関わる仕事をしてきたヒトの仕事を減らし、消費に回らない貯金を増やす」ということだということが分かる。

貯金が増えても、中小企業にお金が貸し出されるならまだ良しとしよう。
ただ、今回、ゆうちょ銀行の預け入れ限度額が2000万円に拡大されるそうだが、他の金融機関は、預金保険機構により、1000万円までしか保証されないのに、政府保証のゆうちょ銀行は2000万円なら、預貯金がどう流れるかは明らかだ。
ゆうちょ銀行には、中小企業向け貸し付けのノウハウがない。
結局、貯金が増えても経済は潤わず、増えた預貯金は、バラマキ政策の財源となる国債の引き受け資金として使われるのは目に見えている。

ゆうちょ銀行に大量の国債を引き受けさせ、その資金を個人にバラマキ、バラマキのお金を受け取った国民は、そのお金をゆうちょ銀行に貯金する。
こんな資金の循環が、わが国に成長をもたらすことは有り得ない。

このように、今の民主党政権がやろうとしていることは、ある意味で、「古い自民党」よりもタチが悪い。
彼らはどこまで日本を後退させるつもりか。
わが国に成長をもたらすためには、一刻も早く民主党政権を打倒し、まともな政治を作っていかなければならない。