農業改革を後退させたつけ(1)~TPPで迷走する民主党農政は「強い農業」に逆行

2010-11-14

11月14日、我が国が議長国となったAPEC横浜会議が閉幕したが、この間、「環太平洋戦略的パートナーシップ協定(TPP)」への参加・不参加を巡り、またも民主党政権の迷走を見せつけられた。
環太平洋戦略的パートナーシップ協定(TPP)は、チリなど4カ国の間で既に締結されており、関税を原則ゼロとする自由貿易の枠組みを作ろうという協定だが、今回、これに米国や豪州も参加し、さらに枠組みの拡大を図ろうというものだ。
ただ、この種の自由貿易協定が話題になるたびに、焦点となるのは農業分野。
我が国の農業の国際競争力はきわめて低い。このため、関税ゼロの農産品が米国や豪州から入ってくれば、農業はひとたまりもなく壊滅してしまう。
民主党政権は、迷走の末、今回どうやらTPP参加の方に舵を切ったようだが、その一方で民主党が進める「農業者戸別所得補償」政策は、以下述べるように、TPP参加とは明らかに矛盾するバラマキ政策だ。
今我が国には、民主党が農業改革を後退させたつけが、国内外で大きくのしかかりつつある。

(「強い農業」を目指してきた私たち)
「貿易立国」日本が経済成長を図るためには、包括的取り決めであるガットやWTO(世界貿易機構)、2国間の取り決めであるFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)に大きな関心を払わなければならないことは言うまでもない。
しかし、冒頭述べたように、これらの取り決めに積極的である余り、我が国の農業を破壊してしまっては、安全保障上も極めて問題だ。
このため、自民党政権時代、一方で農業の競争力を強化するための「構造改革」を進め、他方、自由貿易のための協定の交渉・協議は進めつつも、一定の慎重さをもって臨むという立場をとってきた。

さて、我が国の農業の競争力が弱い理由はいくつかあるが、やはり、その規模と従事者の2つの面をあげなければなるまい。
すなわち、よく知られているように、我が国の農家一戸あたりの耕地面積は1.7㌶に過ぎず、豪州のそれ(1900㌶)の千分の1以下で、生産性向上のためには、一定の規模拡大は必須だ。
しかも、農業従事者の平均年齢は65.8歳(2010年)、早急に若手の後継者を育成しなければ、10年先、20年先には、農業に携わる日本人がいなくなってしまう。
このような事情もあり、小泉政権下、一定規模以上を耕作する比較的若い農業従事者(いわゆる「担い手」)に、農業予算を集中的に投入するという「構造改革」が推し進められた。
もっとも、この政策は、決して小規模でご高齢の農家を切り捨てたものではなく、彼らを支援するため、これまでとほぼ同様の予算規模は確保されていたのだが、補助金申請手続等が大幅に変更されたり、複雑だったこともあり、結果として、「小規模農家切り捨て政策」と受け取られたことは否めず、これが、平成19年参議院選挙における自民党の大敗による「ねじれ国会」を生み出す大きな要因となった。

平成20年、私は、自民党の農業基本政策委員会の主査に内定、農業を愛する先輩・同僚議員とともに、改革のいきすぎという声に真摯に耳を傾けながら、あるべき「構造改革」のあり方を徹底的に議論した。
そして、
①例えば1.5㌶のコメ農家であっても、少なくとも1㌶はしっかりコメを作っていただく代わりに、5㌃については、若手の後継者に貸していただくようにしよう。
②このような農家については、1㌶に栽培したコメについては、コメの価格安定政策を盗ることで安心していただくとともに、農地の貸し出しを奨励するための奨励金を予算化してはどうか。
③このようにして若手の後継者に農地を急速に集積し、農業の競争力の強化を図ってはどうか。
といった方向性を出し、平成21年度の補正予算で、農地の貸し出しに当たっての奨励金(1㌃当たり1500円)を確保した。

私たちは、我が国が自由貿易の枠組みから抜け出すことができない以上、このように、小規模コメ農家に対する保護を行いつつ、若手後継者への農地集積を急速に進めることで、農業の競争力をつけることが重要と考えた。

(民主党の「戸別所得補償」政策は構造改革に逆行)

しかし、平成21年の総選挙で、私たち自民党は、歴史的な大敗を喫した。
政権交代を果たした民主党がマニフェストで謳ったのが、「農業者戸別所得補償」政策だった。
内容は、農家は減反せずに耕作し、生産した作物の販売価格と生産費の差を、国が「戸別」に補填するという夢のような主張で、農家は「赤字」に陥ることはない。これがうけた。

しかし、この政策には、次のように、極めて大きな問題点がある。
①(結局は「減反」を強要)「戸別所得補償」のお金を得蹴る前提として、農家は、政府が定めた生産量を守る必要があり、結局、「減反」が必要条件となる。
②(生産費が十分に補償されない可能性)今年の米価は安く、農家の生産費を補填するためには、私の試算では5500億円の予算が必要。しかし、政府が用意した総予算額は3400億円で、十分な補償が行われない可能性がある。しかも、コメを自由化した場合、国際価格と国内生産費の差額を補填するとなると、コメだけでも毎年1.6兆円の予算が必要で、そんな財源はどこにもない。
④(「戸別所得補償」の財源確保のため農業競争力強化の予算を削減)また、コメの生産費補償のための予算を確保するため、若手後継者のため農地の地型を良くするなどの農地改良事業の予算3300億円を削減したほか、小規模農家が若手後継者に対し農地を貸し出すに際し、私たちが補正予算で確保した奨励金事業を執行停止(廃止)し、農業競争力強化の芽を摘むことに。
⑤(農家の生産性向上の意欲をそぎ現状を固定化)「赤字にならなくて生産費を補償してくれるなら」ということで、農業の現場における農地集積・規模拡大の流れは頓挫した。しかも、汗を流した者にも、そうでない者にも、均等に生産費を補償する政策は、結局は農家の生産性向上の意欲を喪失させることとなることは明白。

このように、民主党の「戸別所得補償政策」なるものは、構造改革に逆行することとなるし、中身も総選挙時のマニフェストに比べ、貧弱・お粗末で(まさに「詐欺」)、将来への展望のないバラマキ・集票のための政策と断じざるを得ない。