農業改革を後退させたつけ(2)~民主党農政では農業を守ることはできない

2010-11-16

(今さらTPPへの参加もないだろう)
それでも私は、民主党に「良心」というものが少しでもあるのなら、「戸別所得補償」という、構造改革に逆行し、高齢・小規模の農業の現状を固定化するための農業政策を推進する以上、今回のTPPもそうだが、自由貿易への枠組みへの積極的な参加はないのだろうと思っていた。
それが農家に対するせめてもの罪滅ぼしだ。
しかし、「GDPの1.5%の農業のために、98.5%を犠牲にして良いのか」(前原外相)、「座して死を待つよりも、打って出る」(仙石官房長官)といった考え方を踏まえ、菅内閣は、「平成の開国」(菅首相)と称して、TPPへの参加を目指した協議を開始した。
内閣支持率も危険水域まで低下し、中国・ロシア・米国からも相手にされない中、APECの議長国でいい格好して政権浮揚を図るとともに、米国の歓心だけは何とかつなぎ止めたいという意図は良くわかるが、農業改革をこれだけ後退させておいて、今さらTPPへの参加もないだろう。
そもそも、「座して死を待つ」道を選んだのは、マニフェストで掲げた政策も何一つ実行せず、構造改革に逆行する中途半端な農業政策を展開し、近隣諸国との外交関係を徹底的に壊してきた民主党政権ではなかったのか。

(「戸別所得補償」では日本農業を守ることはできない)
そして、民主党政権は、TPPへの参加を目指す一方、「農業者戸別所得補償政策」の予算額を増額させることで、農業を守る方策を模索する考えのようだ。
しかし、私は断言できる。「農業者戸別所得補償政策」の拡充では、関税ゼロの枠組みに参加した場合、日本の農業を守ることができない。

①(必要な予算が非現実的)まず膨大な予算が必要になる。細川・日本新党内閣がガット・ウルグアイラウンド協定を受諾し、我が国が自由化に乗り出したときに組まれた農業支援予算総額は、10年間で6兆円だった。
しかし、もしも今TPPに参加し、農産品価格を国際価格にしてしまった上、我が国農業を守るため、毎年の生産費を補填するという「戸別所得補償」政策を十全に機能させたら、どれくらいの予算が必要になるか。
コメの国際価格は、国内価格の3分の1以下だから、先に述べたように、コメだけで、粗生産額の7割に当たる毎年1.6兆円の補填が必要だ。
畜産・酪農分野では、6割という試算もあるようだが、少なくとも粗生産額の5割で、毎年1.2兆円程度の補填が必要になるのではないか。
何やかんやで、毎年3~4兆円のバラマキが必要になるが、こんな支出を、納税者が許すはずがない。
②(後継者を育てない現状固定は「座して死を待つ」もの)そして、たとえ毎年3~4兆円という膨大な予算を農業の補償だけに投入することができたとしても、先に述べたように、農業者戸別所得補償は、規模拡大・生産性向上とは逆行する政策であることを思い出していただきたい。
むしろこの政策は、若くてチャレンジングな後継者を育成するよりも、現状の高齢・小規模農家を固定化するものだ。
今、農業従事者の平均年齢は、65.8歳、戸別所得保障政策で現状を固定化すれば、あと10年もすれば、多分日本の農業を担おうとする人は誰もいなくなってしまう。
これは極めて危険な選択だ。

(私たちにまともな農政をやらせていただきたい)

民主党政権は、今になって、「農業の構造改革」を言い出したようだが、「農業者戸別所得補償」政策というバラマキ・構造改革への逆行政策の旗を降ろそうとはしていない。
こんなちぐはぐでは、農政は崩壊してしまう。
民主党のデタラメ農政でなく、私たちにまともな農政をやらせてほしい。