「震災復興のドサクサ」に紛れた公約違反を許すな~詭弁を弄する民主党政権を監視しなければ

2011-10-19

一軒一軒のおうちを伺いながら、政権は国民の意見を聞くべきと痛感する

10月20日、永田町では臨時国会が召集され、国会は、震災からの本格復興のための第3次補正予算の審議に入ることとなる。
今回の補正予算の規模は約12兆円とのことだが、自民党が7月6日にまとめた「17兆円規模の補正予算提言」の半分以上の項目は盛り込まれているらしい。
ただ、いかんせん遅すぎる。
自民党が政府に提言を行ってからすでに3か月半、民主党の党内政局の混迷で、復興策の実施が延び延びになってしまった。
被災者の皆さんは、本当にお気の毒だ。
ただ、何故もっと早く出さなかったのかという不満はあるが、野田新内閣が復興対策の補正予算を提出してきた以上は、財源問題は別途詰めるとして、必要な復興支援策には、与野党が協力し、早期の成立・執行を図るべきと思う。
もっとも、「財務官僚言いなり」の野田内閣のこと、「今は震災復興に全力を傾ける時期」、「だから解散総選挙の余裕はない」というお題目の影に隠れ、震災復興のドサクサ紛れに、国民や国会の意見を無視して、勝手にことを進めないように、私たちはしっかり監視しなければならないと思っていた。
そんな矢先の10月15日、パリで開催されたG20(20カ国・地域、財務相・中央銀行総裁会議)で、2010年代半ばまでにわが国の消費税を5%引き上げるための関連法案を、来年の通常国会に提出し、成立を図ることを国際公約したというニュースが飛び込んできた。

ちょっと待てよと思う。
この消費増税は復興財源ではない。
野田内閣は、震災復興に全力を傾けるべきで、それ以外に、前回総選挙の公約違反の決断をしたいのなら、まず国民の信を問い、その意見を聞かなければならない。(民主党首脳による「詭弁」の積み重ね)
2009年の総選挙時、民主党は、「自民党による税金のムダ遣いを見直せば、毎年16.7兆円(消費税8%分)の財源が得られる。だから民主党政権の下では、4年間消費税は上げない。」と公約して政権を奪取した。
消費税8%相当分の財源捻出が可能なのだから、まさか民主党が、消費税上げの議論に踏み込むとは、総選挙時は誰も想像しなかったと思う。
それが政権交代後1年、藤井元財務相、菅元財務相、野田前財務相らの懸命の努力(不足?)も空しく、予算の組み替えなどにより捻出できる財源は、当初目論んだ16.7兆円でなく、3兆円に過ぎなかったことが明らかになる。
民主党のバラマキ政策(こども手当、朝鮮学校等授業料無償化、高速無料化、農業戸別所得補償)を実施し、月額7万円以上の最低保障年金などを実現しようとすれば、借金を増やさない限り、年間13.7兆円の増税が必要となるわけだ。
そこで民主党は、公約の方向転換に乗り出すが、以下首脳の発言を記す。
○(総選挙時)「消費税上げの議論はしないとは言わないが、議論は10年くらい先の話だ」(2009.8鳩山代表)
○(鳩山内閣)「消費税上げの議論を前倒しする。本当に大改正をするときは国民に判断してもらう。」(2010.2菅財務相)
○(菅内閣)「参院選マニフェストで消費税改革案をとりまとめたい。税率は10%程度を参考にしたい。」(2010.6菅首相)
○(菅内閣)「2010年代半ばまでに消費税10%の方向に則り所要の改正を進める考え方で税制改正の検討を行う。」(2011.6政府与党合意)
これを見ると、総選挙の公約が、いかになし崩しになってきたかがよく分かる。
民主党は、「消費税8%分の財源がムダ削減で捻出できる」、「消費税議論は10年くらい先」と言ってきた政党だ。「議論しないとは言っていないから公約違反でない」という論法は、明らかな詭弁だ。

(「議論」から「実行」に舵を切った安住財務相の詭弁)
そして今回、安住財務相は、消費増税の「議論」から、「実行」に舵を切る。
消費増税の関連法案を国会に提出し、その成立を図るということは、「議論」の段階を終わり、消費増税の実行行為に入ることを「国際公約」したということだ。
私も、政治家、あるいは官僚の立場から、いくつもの法律の立案・制定に関与したが、法律は、政府与党内部で議論を尽くした上で関連法律案の制度設計がなされ、国会審議を経て成立、その後は法律の施行までの間に執行事務の準備が行われる。
すなわち、政府が、消費税上げの法律案を国会に提出した段階で、施行日が数年先であれ、その政権は、「消費増税の実行に着手」(未遂でなく既遂)したことを意味する。
これを「持ち家の購入」にたとえれば、熟慮の上購入の申し込みを行った段階が「法案の提出」、契約書を締結した段階が「法律の成立」、実際の家の引き渡しが「法律の施行(この場合は消費税上げ)」というところか。
「引き渡しが2010年代半ばだから、たとえ今契約をしても、家を買ったことにならない」という論法は通用しないわけで、関連法案を提出した段階で、その政権は「消費増税を行った」ことになることがおわかり頂けると思う。
その意味で、来年の「関連法案の提出・成立」を明言し、しかもこれを国際公約にしてしまった安住財務相の神経を疑わざるを得ない。
来年の通常国会で、このような公約違反の消費税増税を行うようであれば、野党としても、審議入りの前に国民の信を問うことをしっかり要求すべきだ。
その一方、震災復興関連の審議だけは、粛々と進めれば良い。

(野田内閣は震災復興関連政策に専念せよ)
もっとも私自身、少子高齢化の急速な進展の中で、年金・医療・介護の社会保障の安定財源を確保するためには、国民の信を問い、その意見を聞いた上での消費税引き上げを否定するものではない。
ただ、その前提として、民主党が「消費税を上げなくても実施できる」と豪語してきたバラマキ政策(こども手当、朝鮮学校等授業料無償化、高速無料化、農業戸別所得補償)を即刻止めることが必要だ。これだけで消費税数%分が浮く。
マニフェスト見直しも中途半端のまま民主党が消費税上げに着手することは、「震災復興のドサクサに紛れた公約違反(マニフェスト詐欺)隠し」に他ならない。
わが国は今、国民あげて、震災復興に取り組まなければならない。
だからこそ、野田内閣には、全身全霊を傾注して、震災復興政策のみに専念して欲しい。
前回コラムで述べたTPP問題もそうだが、どうもこの政権、マニフェストの嘘を糊塗したり、他の課題に浮気して、震災復興がおろそかにならないか心配だ。
しっかり監視していかなければならない。