「思いつきの政治主導」の次は「財務官僚言いなり」~全体戦略とタイミングを押さえた「まともな政治」を取り戻せ

2011-10-18

TPPや消費税問題はしっかり国民の意見を聞けと訴える

「野田政権は2日に発足から1か月を迎える。政権運営の混迷が続き、短命に終わった鳩山、菅両政権の反省から、野田首相は野党や官僚に低姿勢で向き合い、党内融和を旨に『安全運転』に徹している。(中略)
この1か月、首相は『できないことは言わない』(側近)を基本路線に、新機軸はほとんど打ち出さず、政権運営や政策方針の決定では担当の閣僚や民主党幹部に判断をゆだねるケースが目立った。」(10月2日付読売新聞)
野田氏は、「思いつきの政治主導」を乱発し、行き詰まって退場した鳩山・菅内閣を反面教師として、「長期政権」を狙っているようだ。
勿論、震災復興には、どんな内閣だろうとしっかり協力すべきだろう。
ただ、野田政権は、震災復興以外に、そのドサクサで、消費税引き上げ法案の準備、年金支給開始年齢引き上げ検討、TPP参加問題など、かつて自民党政権でもやらなかった(財務)官僚言いなりの課題に手をつけつつある。
「思いつきの政治主導」の次は、「政治主導の死」あるいは、「財務官僚の言いなり」ということか。(官僚まかせでは政府全体の戦略とタイミングの視点が欠如)
私自身の経験でも、官僚は、政治家と比べ、確かに専門知識には優れている。

ただ彼らは、各省庁の枠の中で目的合理主義的な思考方法をとるため、
○全体戦略の中で他省庁との役割分担を行う視点が弱い
○「良い」政策をすぐに実行すべきと考え、副作用への配慮が弱い
などの問題も出てくる。
だからこそ政治には、国全体として戦略を確立し、各省庁の役割分担を行い、副作用が少ない最も効果的なタイミングで実行を決断することが求められる。
しかし、民主党政権の政治には、残念ながらそれがない。
今、TPP問題、タバコ増税問題、社会保障と税の一体改革問題など、政治家の戦略やタイミングの感覚を疑わざるを得ない問題が、続々と出来している。

(「反構造改革の民主党がTPPに熱心」という戦略的矛盾)
小泉政権以降の自民党は、あらゆる分野で「構造改革路線」を進めた。
細かないきすぎは勿論あったが、グローバル化に対応した強い社会を作るという方向性は、やはり正しかった。
当時も、WTO(世界貿易機構)のドーハラウンド交渉が進む一方、他国とのEPA(経済連携協定)の積極的な締結は、まさに世界の趨勢となっていた。
関税撤廃、人や資本移動の自由化などの潮流の中で、我が国が生き残るためには、国内的には聖域なき構造改革を進め、世界レベルに少しでも近づくことを目標に各産業の生産性向上を図った上で、外国との交渉の場面では、「攻めるべきは攻め、守るべきは守る」タフな交渉を進める必要があった。
ただ、現場での痛みを伴ったことも事実で、農業の大規模化推進は、民主党からは「小規模農家切り捨て」と批判され、社会保障費の縮減や後期高齢者医療制度の創設は、やはり民主党から「老人いじめ」と批判された。
そして、前回総選挙で、民主党は、「小農も所得が補償される戸別所得保障」や「後期高齢者医療制度廃止((注)民主党政権の下でも結局存続)、診療報酬の増額」などを公約に、多くの農民や医師会の支持を得、政権を奪取した。
それから2年、民主党政権は、反構造改革政策を推進してきた。
ところが今、反構造改革で勝利した民主党政権が、例外なき関税撤廃、自由化促進のTPP(環太平洋パートナーシップ協定)参加に舵を切るという。
これまでグローバル化逆行政策を推進しておいて、TPPに参加することは、生産性の低い国内産業(農業のほか、医療、福祉、サービス業など我が国の雇用の大宗を占める。)を、何の準備もないまま他国に売り渡すことを意味する。
政権交代後、自衛隊のインド洋給油活動中止で米国の勘気に触れ、普天間問題で米国の不信を買った民主党政権に対し、米国も堪忍袋の緒が切れたようで、先月、野田首相は、オバマ大統領からTPPへの参加を強く要求されたらしい。
だから場当たり的に方向転換するというのでは、戦略的一貫性の欠片もない。

(平成22年のタバコ増税のタイミングの悪さ)
タバコ増税は、平成22年に実施され、今回も増税が検討されているという。
自民党はこれに反対だが、報道されているように、支持基盤の「葉タバコ農家」を守るためだけではない。事実農家数は全国で約1万戸に過ぎずない。
実際私の選挙区でも農家は数戸、個人的にも数年前に禁煙しているが、それでも、平成22年の大増税には、大いに首をかしげたことを覚えている。
その理由は、平成20年8月のタスポの導入だ。
タスポは、タバコ自動販売機用成人識別カードで、JTや業界団体も協力して導入したものだが、予想されたこととはいえ当初その普及率は低迷、平成21年には、町のタバコ小売店(自販機での販売が主)が壊滅的な打撃を受け、「店員による販売」を行う大手コンビニに、「タバコ特需」をもたらした。
そして、その翌年の平成22年、民主党政権は、過去最大のタバコ増税(一箱110~140円)を強行する(平成22年4月現在のタスポ普及率は全喫煙人口の4割弱に過ぎなかった。)。
当時「これはタバコ屋には死ねということか」と思ったのを覚えている。
案の定、タバコ販売店数は、平成22年だけで3.4%の減、開店休業状態の店舗も多く、体感的には統計以上の減少で、地域によっては半減したという報道もある。増税はこのタイミングでなくても良かった。
かつて多くの町に、「タバコ屋の看板娘」がいる日本があった。
このような商店を壊滅させることは、ただでさえ脆弱化している地域コミュニティーの1つの要素を失わせることになる。
タバコ増税の直接の責任者は、当時財務副大臣だった野田首相その人。
「打落水狗(水に落ちた犬はたたけ)」のようなことを、政治がするべきではない。

私たちは、この日本に、まともな「政治」を取り戻さなければならない。