無視され続けるコミュニティ活動基本法案~民主党は「絆」についてどう考えているのか

2012-5-27

劣化する日本の政治の立て直しを図らねばと訴える

去る4月24日、自民党本部で次期衆議院総選挙公約原案についての意見交換会が開催され、かつて私が手がけていた「コミュニティ活動基本法の制定」も、原案の中に明記された。
東日本大震災発災後、「絆」の大切さが叫ばれているが、まさにその「絆」の劣化を防止することを狙ったコミュニティ活動基本法案は、民主党政権下、全く無視され続けている。
今回のコラムでは、私がコミュニティ活動基本法案を策定した狙いなどについて書くとともに、今の永田町政治の劣化について考えてみたい。

(自民党地方行政調査会事務局長に就任して抱いた危機感)
平成18年12月、私は、自民党地方行政調査会長の太田誠一会長(元総務庁長官)の依頼で、同調査会の事務局長に就いた。
太田氏は、「地域の教育力の再生」に取り組みたいという強い熱意を持たれており、与党として何ができるか、私が計画を立て、実際に、町内会、自治会、ボーイスカウト、スポーツ少年団、消防団等、現場で活動をされている方から、毎月のヒアリングを重ねた。その中で私たちは、町内会、自治会など、地域の基礎的コミュニティが、関係者の懸命の努力にもかかわらず、想像以上に劣化している現状に、改めて、大きな危機感を持ち、平成19年5月には、地域コミュニティの劣化防止のための法律策定も含んだ総合対策を講じるべきとの提言をとりまとめた。
ただ、この年の7月、自民党が参院選で大敗、いわゆる「ねじれ国会」の中で、一旦は議員立法の検討が中断することとなってしまった。

(コミュニティ活動基本法案の策定へ)
町内会・自治会等は、平成3年の地方自治法改正で、市町村の認可を受ければ、法人格を持てるなど(全体の2割弱が認可を受けている)、これを支える法律が、全くないわけではない。
ただ、特に、平成17年の個人情報保護法施行後、町内会・自治会への情報提供にいろいろな問題が生じるようになってきた。
例えば、町内会員が入院したということで病院に問い合わせても、法律を盾に何も教えてくれない。
あるいは、新たに転入した住民の氏名等について行政に問い合わせても、何も教えてくれない等々だ。
この場合、病院や行政が、本人に「町内会に教えても良いですね」という了解を取れば良いのだが、多くは面倒臭がってやらない。
これでは地域社会は、ますます先細りになってしまう。
このため、「ねじれ国会」の中でも何とか法律は作ろうと、平成20年1月、法制化作業を再開、同年5月、自民・公明両党からなるプロジェクトチームを立ち上げ、やはり私が事務局長に就き、平成21年の通常国会での成立を目指し、本格的作業に入った。

(コミュニティ活動基本法案の内容)
与党PTでは、さらにヒアリング等を重ね、この手の問題を議論するとき、とかくありがちな「強制臭」や「説教臭」を排し、純粋に地域コミュニティの劣化防止に資する法案作りを目指した。
内容はシンプルで、
○行政は、町内会・自治会等住民の自発的な地域コミュニティ活動をしっかり把握する。
○行政は、このような地域コミュニティ活動をバックアップする。
○個人情報保護法の過剰運用を排し、適切な情報提供を受けられるようにする。
ことを骨子とするものだ。
中身を知らない方からは、「隣組の復活」などとという批判もあったようだが、そもそも具体的予算措置や強制措置の伴わない法律で、隣組などができようはずはなく、ためにする批判の類だろう。
この法案の最も具体的な実益は、町内会や自治会関連では個人情報保護法の過剰運用を排し、何とか地域コミュニティの劣化を防ぐことにあったと、私は考えている。
さて、当時、議員立法は、政府提出法案のメドが就いた後、与党政策責任者会議に諮り、与野党折衝に入る慣例となっており、このコミュニティ活動基本法案も、平成21年5月7日の与党政策責任者会議で了承され、民主党への説明を行う段取りとなった。

(民主党の反応とその後)

H21.7.1民主党総務部門会議で法案を説明


民主党に対しては、早くから法案の説明を打診していたが、通常国会の会期末1月弱前の平成21年7月1日にようやく実現した。
私の説明に対し、「町内会・自治会は自民党の支持母体だからこんな法案を作ったのか」など、いささかトンチンカンな質問がなされたが、特段の反対はなく、結論は幹部預かりとなった。
ただ、その後、民主党の幹部から、「良い法案だとは思うけれど、葉梨さんが政党助成法案(注)の責任者をやっていると協力したくてもできない」という話もあったりで、結局民主党は、全くやる気がないということが良く分かった。
注)民主党の小沢幹事長(当時)が、かつて自由党を解党時、同党に助成金として交付されていた国民の税金数億円を、小沢氏個人が関連する政治団体に移し替えたことが、税金の私物化と指摘された問題で、この資金を国庫に返納することを可能にする法案。

そして、平成21年の政権交代以降、コミュニティ活動基本法案の件は、民主党により、無視され続け、今に至っている。
先般、震災被災地の町内会長さんが、かつて町内会に所属した世帯の避難先が皆目分からず、新しいまちづくりに当たり、頭を抱えているという報道を耳にした。
町内会への情報提供は、一体どうなっているのだろうか。
そもそも、今の与党の方々は、自己保身には大変熱心のようだが、地味ではあるが、じっくりと議員立法に取り組み、ヒアリングを重ね、説得に汗をかこうという、やる気や、余裕や、経験や、知識が、どれほどあるのだろうか。
地域の絆の劣化を防止するための政策は、何も税金を上げなくても、すぐにでもできる。