食糧安全保障と強い農業基盤の確立のために~畜産・酪農危機突破の対策を決定

2008-2-26

平成20年度畜産・酪農緊急対策を発表

2月21日の自民党・畜産酪農対策小委員会。
私が委員長として、危機的状況にあるわが国の畜産・酪農の現状を打開するため、緊急の対策をとりまとめて発表、了承を得た。
実は、政府・与党は、毎年この時期、畜産・酪農対策小委員会を舞台に議論を行い、牛肉の輸入関税などを財源とした1000億円規模の畜産・酪農振興対策を取りまとめる。
もっとも、私にとっては、茨城県自身は大畜産県ではあるが、選挙区での畜産・酪農業は、必ずしも盛んではない。
それでも、「だからこそ公正な判断ができる」という妙な理屈(?)からか、異例の連続3期の登板となった。

実は、昨年来、トウモロコシの国際相場が高騰、飼料の大半を輸入に頼るわが国の畜産・酪農農家の経営を直撃、現場からは、「もう農家をやめるしかない」という悲鳴が上がっている。
畜産・酪農農家の総売上は毎年2.2兆円だが、昨年の飼料価格の上昇で、1500億円程度のコスト増となり、それが今年も、さらに続きそうな状況だ。
折からの中国産毒ギョーザ事件で、国産の安全な食料供給基盤の強化が叫ばれているにもかかわらず、農業の現場には、嵐が吹き荒れている。まずは、当面の離農を食い止めるためにも、この時期決定する畜産・酪農振興対策の一環として、緊急の経営支援策を打ち出すことが必要だった。
だからこそ、去る2月15日、全国から1700人を集めて都内で開催された「畜産・酪農危機突破全国代表者集会」の場で、私は、次のような挨拶を行った。
「過去3年間、委員長として、全国の畜産・酪農の現場を見てきたが、皆さんは必死で構造改革に努力している。
しかし、現在の危機は、輸入穀物の高騰という外的な要因によるもので、政治としても、何とかしなければならない。
ただ、国がエサ代の(ほんの)1部を補助するという民主党の提案は、明らかに愚策だ。焼け石に水の感がある上、結果として外国の業者に多額のお金を支払い、かつ、飼料の輸入体質を固定する。さらに、大手スーパーに産品を買いたたく口実を与え、生産コストの価格転嫁を阻害する可能性がある。
自民党は、より確実な『緊急対策』を打ち出す。
そしてこれは、第1に、『苦しい経営状況をしのいでいける』ことが実感できるような、農家に『わかりやすい』ものでなければならない。
第2に、緊急対策は、農家の経営努力促進するものでなければならない。そうでなければ消費者の理解を得ていくことはできない。
第3に、緊急対策は、生産コストの、適正な価格転嫁を阻害するものであってはならない。
以上の観点から、小委員会では、『緊急対策』を取りまとめ、皆さんの『当面の安心』を確保する。」

もっとも、大見得は切った以上は、ある程度の突破力をもって、命がけで予算を積まなければならない。
2月6日から2月20日まで、集中的に行われた畜産・酪農小委員会における議論(発言議員は、のべ90人に達した。)を踏まえ、私も、2月20日深夜まで、陣頭指揮で、折衝やとりまとめに当たった。
その結果、総額で1871億円、対前年比632億円増の対策費を確保、酪農家、肉牛農家及び養豚農家のそれぞれについて、当面、「頑張っているのに収入が経費を下回る」事態を回避できたと考えている。

しかし、畜産・酪農農家だけでなく、我が国の農業・農村が、「将来への希望」を確保していくためには、実は、この「緊急対策」だけでは、不十分だ。
2月15日の「代表者集会」。私は、続けて、次のように挨拶した。
「しかし、『緊急対策』で当面の安心を確保したとしても、我が自民党は、皆さんの、『将来への希望』も確保していかなければならない。
我々は、皆さんのお子さん、お孫さんが、『畜産・酪農をやっていこう』と思えるような、将来の農村の絵姿を提示していく。
ともに『希望』を、確実なものとしていこうではありませんか。」

だからこそ、2月21日の対策取りまとめに当たって、私は、次の諸点を検討するプロジェクトチームを設置し、5月末を目途に追加対策のメニューを具体化することについて、了承を得た。
①配合飼料価格安定制度及び経営安定対策に係る追加対策
②生産コストの適正な価格転嫁対策
③飼料米等自給飼料基盤の抜本的強化対策

例えば②については、勿論、生産者がしっかりとした努力をした上で、生産コストの上昇分は、適切に(ただ、狂乱物価状況を作らないための施策は必要だ。)価格に転嫁できる仕組みを作っていかなければ、結局は、わが国で食料を生産しようという人がいなくなってしまう。
現在、大手スーパーの価格形成能力が極めて高く、デフレから脱却できず、賃金交渉の材料である生活諸経費が上がらないことも、実は、労働者の賃上げを阻害する要因となっているような気もする。
ここで、適正な価格転嫁の仕組み、さらに、適正な賃上げの仕組みができれば、わが国の個人消費は、相当程度改善するはずだ。

また、③についても、わが国が、毎年2200万㌧の飼料用穀物
(うちトウモロコシが1200万㌧)を輸入している状況が続くことは、食糧安全保障の観点からも、畜産・酪農農家の経営安定の観点からも、構造的な「爆弾」を抱え続けることとなるわけで、早急な手当が必要だ。
これについて、私は、常々、数年先には、輸入する飼料用穀物の半分程度を、10㌃1㌧程度の多収穫米、いわゆる「飼料米」で代替していくべきと主張してきた(勿論必要な予算が必要)。
そうすれば、現在約115万㌶の減反対象水田のほとんどを、「飼料米用水田」として、水を張って生き返らせることが可能になる。
これは、日本の農村風景を美しくするだけでなく、主食用米(短粒種、もちもち感あり、臭いなし)800万㌧生産、飼料米(中粒種、ぱさぱさ感あり、臭いあり)1000万㌧生産が確保できれば、畜産農家も、トウモロコシの国際相場に一喜一憂しないですむ。
さらに、これは、食糧安全保障の観点からも大きな意味を持つ。
すなわち、世界的な危機で食糧輸入が止まってしまった場合、まあおいしくはないが、エサ米を人間が食ってしまえばよい。
米と漬け物とちょっとした魚を食べる場合、1人1年150㎏の米があれば、なんとか生きていける。だから、計算上は、1億2000万人を食べさせていくことができる。
しっかりと地に足のついた検討を進めれば、私は、わが国の農村風景をもっと美しくし、国民の安心感を高めることは、あながち夢ではないと思う。

以上のように、今回の小委員会では、私は、相当な宿題を負うことを自ら宣言し、敢えて抱え込むこととなった。
しかし、「生産コスト補助」のような甘言を弄して、結果として大手スーパーを利する政策を提言する某政党は論外として、私は、食糧安全保障と強い農業基盤を確立することは、やはり、政治家としての基本的な責務だと考えている。
5月末までに、生産者だけでなく、全ての日本国民に対し、しっかりとした「夢と希望」を提示していきたい。