予算審議過程での「誤解10カ条」(1)~国産麦のパンで自給率向上は簡単?天下り禁止で無尽蔵の財源?

2008-3-10

予算委員会での質問風景

2月25日(月)の衆議院予算委員会。
「ガソリン国会」と言われる今国会も、平成20年度予算案の審議が、まあ、大詰めと言って良いタイミングだ(29日に衆院通過)。
この日、私は、45分間という、与党委員としては比較的長い時間を頂戴して質問に立った。
さて、私たちは与党の一員であり、その責任において、政府提出の予算案をできるだけ早く成立させなければならない。
ただ、それゆえ、与党側の委員には、余り質問の機会が巡ってこない。
実際、本年の衆議院予算委員会では、野党側の委員(15人)には、1人当たり4時間強、計約60時間と、この数年で最長の質疑時間を割り当てたが、自民党委員(31人)には、1人当たり30分弱の割り当てがあったに過ぎない。
とはいえ、与党質疑の中で、各種報道や野党側の追及の中に、必ずしも的を射たと言えないものがあることを、しっかりと指摘しておくことも、建設的議論を進める上では極めて重要だ。
この日の私は、杉浦正健元法務大臣ともども、その役回りを担い、国会審議やテレビ報道の中でまことしやかに横行する「誤解に基づくと思われる命題」10カ条を指摘させていただいた。よくある誤解第1条「国産小麦を増産してパンを作れば自給率向上は簡単」

飼料米等の問題に答える若林農林水産大臣

この日の質疑冒頭はこの話題。
昨今、輸入麦の国際相場が高騰、パンも値上げの動きが急だ。
その一方、わが国の食料自給率(カロリーベース)は年々降下、今や39%と、先進国では最低の水準だ。
政府も自給率向上の努力をするものの、正直な話、なかなか結果に現れてこない。
そこに民主党が、「水田の転作・裏作に補助金をつけ、過去最大収量である400万㌧の国産小麦を生産、これを毎年540万㌧輸入しているパン、パスタ等用の外国産小麦に代替すれば、計算では自給率を8%上げられるから、食料自給率をすぐに50%にすることができる。」と言い出した。
しかし、これはまさに机上の空論だ。
すなわち、日本の小麦は、残念ながら、収穫期が梅雨と重なるという風土的条件があり、グルテン(タンパク質)の含有量が低く、かつ、安定しないため、パンやパスタの原料(強力粉)には向かず、ほとんどを、うどん粉(中力粉)として使用せざるを得ないということを念頭に置いていない。
実際、昨年約100万㌧収穫された国産麦のうち、パン用に回すことができたのは、北海道の一部品種など極少量で、1万㌧程度にしか過ぎない。
要は、現在の日本の麦では、わが国の消費者が好むようなパンやパスタは作れないということ。これでは、麦を増産しても、食料自給率の向上にはつながらない。
そもそも、民主党の言う「過去最大収量」は、小麦の生産量でなく、昭和29年、大麦、裸麦、六条麦、小麦の4麦合計で410万㌧の生産があったことを論拠としているらしいが、これらの麦は、当時の食糧事情から、「麦飯」や「すいとん」の材料になったものであることを忘れてはならない。
だから、麦の増産による自給率の向上は、実は結構難しい。
この日は、そのへんのところを、政府側に答弁させた上、食料安全保障の確保の観点からは、畜産業向けに、飼料用穀物を毎年2200万㌧も輸入している実態も大きな問題で、麦の増産もさることながら、配合飼料の原料になる多収穫米の増産こそが必要という持論を展開させていただいた。

よくある誤解第2条「特別会計には国会のチェックが及んでいない」
よくある誤解第3条「その特別会計から宿舎費や福利厚生費を支出するのは目的外使用で、その全てがムダ遣い」

次に、特別会計の問題。
本年度予算の審議の過程では、週刊誌などで、「国会の監督の及ばない『道路特別会計』から公務員宿舎建設費などが支出され、役人が、国民に内緒で、コソコソとムダ遣いをしている。」といった論調も散見された。
ただ、これは明かな誤解だ。
まず、特別会計予算も、一般会計予算と同様、国会審議を経て成立するもので、「特別会計だから国会の監督が及ばない」という性質のものではない。
また、公務員の給与、宿舎費、福利厚生費などは、それが必要と認められれば、本来税金から支出されるべきもので、特別会計から支出するか、一般会計から支出するかというのは、いわば「キメ」の問題で、「特別会計から支出されている」ことをもって、「およそ全てムダ遣い」と決めつけることはできない。
この日の質疑では、これらの点も確認的に押さえておいた。
その上で、私たちは、「特別会計だからムダ」という予断を持つことなく、中身の議論で、従来の道路特別会計からの支出に、ムダ遣いがなかったかどうか、厳しくチェックしていくことが必要だ。

よくある誤解第4条「天下りをなくせば財源はいくらでも出てくる」

その次は、「税金のムダ遣い」と財源の問題。
「年金を削る前に天下りを削れ。」、「社会保障を削る前に、税金の無駄遣いを削れ。」との民主党の主張には、私も肯ける点がある。
ただ、天下りによるムダや談合などによるムダ遣いを削れば、彼らの「政策」の「財源」が全て充足されるかどうかは、相当疑問だ。
民主党の現在の「政策」なるものをザッと並べると、
・金持ち子弟も含めた子ども手当創設と公立高校授業料無償化(少なくとも年5.1兆円支出増。)
・国の補助で時給最低千円等(年1.4兆円支出増。)
・基礎年金保険料の徴収を止めて税金で負担(年6.3兆円支出増。)
・農家への戸別所得補償制度の創設(年1兆円程度支出増。)
・高速道路を無料化(年2.5兆円の料金収入の欠損。)
・ガソリン税等暫定税率を廃止(年2.6兆の税収の欠損。)
となり、少なくとも、毎年18.9兆円のお金(毎年の国税収入の約4割に当たる。)を、どこからか持ってこなければならない。
ところが、その財源として、民主党は、配偶者・扶養控除の見直しによる「所得税増税」で、2.7兆円を捻出するらしいが、アトの16兆円強は、「行政のムダ」を排して捻出できると言うのみ。
実は、この日の質疑では、私から、「行政のムダを排する究極の方策」を提案させていただいた。
それは、「全ての国家公務員をクビにする」こと。そうすれば、給料も支払わずに済むし、天下りのムダもなくなる。
では、総人件費をゼロにすれば、一体、いくら浮くか?
質疑でも質したが、答えは「人件費総額は年5.3兆円」。
まあこれでは、16兆円強の支出増には、とても対応できない。
「天下りによるムダ」や「談合などによる税金のムダ遣い」を削っても、浮くお金はせいぜい年間5.3兆円、民主党の政策が、「白鷺から白を引く」類のものであることが浮き彫りになってくる。
いずれにせよ、「天下りをなくせば財源はいくらでも出てくる」という論旨は、誤解以外の何ものでもない。
そして、民主党も、良くここまで、ありもしない「見せ金だけの政策」を並べ立てたものだと、半ばあきれてしまう。(次号に続く)