予算審議過程での「誤解10カ条」(2)~霞ヶ関埋蔵金は万能?小泉改革後もケインズ的ムダな公共事業?

2008-3-10

小泉改革について述べる大田経済財政大臣

今回のコラムでは、前回に引き続き、平成20年度予算審議過程で見られた「誤解に基づくと思われる考え方」の第5条と第6条。

よくある誤解第5条「『霞ヶ関埋蔵金』は無尽蔵」

昨今、「霞ヶ関埋蔵金」という言葉がはやっている。
これは、自民党の財政改革研究会(与謝野馨会長)が、「行政のムダを省き、特別会計の貯まり金や政府資産を整理すれば『お金が無尽蔵に出てくる』というのは、『霞ヶ関埋蔵金伝説』に過ぎず、やはり安定的な税源の確保が必要」という主張をまとめたのが発端。
これに、与党の他の政治家が、「いやいや『埋蔵金』はある。これを先に使え。」と反駁し、与野党こぞって、「埋蔵金探し」に血眼になったというのが、ことの経緯だ。

実は、「埋蔵金」という言葉は、「無尽蔵に隠されているお金」というイメージを持つため、言葉として、極めて誤解を生みやすい。
私は、より妥当な表現は、上品に言えば「貯金」、下世話に言えば「へそくり」といったところだと思う。

埋蔵金について答える額賀財務大臣

当然のことながら、国は、国有林などの資産も持っているし、外貨準備など、多少の積立金も持たねばならない。
その意味での「へそくり」はあるわけで、数え方にもよるが、まあ、何十兆円のオーダーにはなろう。
ただ、「埋蔵金」という響きは、大変危険なことに、国が、実は800兆円にも上る借金をしている現実を忘れさせる魔力を持つ。

2月25日の質疑では、次のようなたとえ話を披露した。
「 国を、国民が雇った保安官にたとえることとする。
国民が、通勤手当2万円込みで、毎月50万円の給料(毎年の税収50兆円)で国男君という保安官を雇った。でも、この保安官、50万円では活動費も出ず、毎月30万円の借金(毎年の新規国債30兆円)をして仕事につぎ込んでいる。その借金がつもりつもって800万円(累積国債残高800兆円)。
ところがある日、国男君の奥さんの国子さんに、何十万円かの「へそくり」があることが明らかになった(「『埋蔵金』ン十兆円?)。国民の一部は、国男君夫妻に、『「へそくり(埋蔵金)」があるなら、通勤手当2万円(国庫に入る暫定税率2兆円)は払わない』と言い出す。これでは、国男君夫妻、夜逃げするしかないのでは。」

私自身は、国家財政のバランスシートの透明性を確保する上で、「へそくり(埋蔵金)」探しは大いに結構だと思う。
しかし、800兆円もの借金がある現実を直視せず、しかも、毎年入ってくるお金でもないのに「埋蔵金万能論」の幻想を振りまくことは、結果として、政治家が、国民に失望と誤解を与え、それこそ「山師」になりかねないという危惧を抱いている。

よくある誤解第6条「小泉構造改革後もケインズ的ムダな公共事業」

次に、公共事業のムダの問題。
「ちょっと前まで、道路工事といえば穴の掘り返しばかりで、とても必要とは思えない。これからもきっとそうなんだろう」という印象は、ある意味で素朴な国民感情ではなかろうか。
そして、小泉構造改革前は、「社会資本整備の観点から、真に必要とは言えない公共事業」は、やはり存在したのだと思う。

なぜなら、「景気対策としての公共投資」が大々的に行われていたからだ。
高度成長の終焉後、政府は、雇用の確保と景気刺激を図るため、ケインズ経済学的な財政出動を繰り返してきた。
特に、バブル崩壊後の金融危機を受け、自自連立、自自公連立を組んだ小渕内閣においては(当時の与党自由党党首は小沢一郎氏)、当初予算以外の補正予算で、平成10年度8.1兆円(「緊急経済対策」)、平成11年度6.5兆円(「経済新生対策」)という、大規模公共事業を、景気浮揚のために投入し、当時の小渕首相自身が、自らのことを、「世界1の借金王」と自嘲気味に語られていた。
これは明らかに「ケインズ政策」。

J・M・ケインズの経済学といえば、有名な「穴掘り理論」、すなわち、「『ムダな工事』などあり得ない」という考え方だ。

先の国男君夫妻のたとえ話が、野党席から不評だったので、この日の質疑では、「おおばともみつ」氏(元財務官)著「世界ビジネスジョーク集」から、旧ソ連の計画経済を皮肉った挿話を引用した。
「モスクワの広い通りの真ん中で2人の労働者が働いている。1人が穴を掘る。もう1人が穴を埋める。1ヶ所が終わると数㍍動いてまた穴を掘る。もう1人が穴を埋める。その繰り返しである。
イギリスの観光客が不思議に思って尋ねた。
『何をしているの。あんたたちはケインジアンか。』
労働者は答えた。
『ケインズってなんだ。いつもは3人1組で働いている。1人が穴を掘る。2人目が苗木を置く。そして3人目が土をかける。今日は2人目の苗木の担当が風邪をひいた。だから2人でやるしかない。』」

「財政出動をして、穴を掘って、それを埋めるだけで、雇用が創出されるだけでなく、穴堀り機・穴埋め機を生産する設備投資を刺激し、景気浮揚効果を持つ」という、極端なケインズ理論に立てば、上記のケースも、決してムダではない。

これが、平成13年の小泉政権の登場で、180度転換する。
平成13年6月の「経済財政運営と構造改革に関する基本方針(いわゆる骨太方針)」は、従来の公共事業のあり方の、「費用便益計算が甘かった」点を率直に反省、公共投資を、「景気浮揚対策(ケインズ政策)以前の水準まで削減」することを打ち出した。
だからこそ、例えば、道路整備に投資される金額も、平成10年度のピーク時(小沢自由党党首が与党)には年間15兆円強だったものが、昨年度は、約8兆円にまで大鉈が振るわれ、現場では、最低限の道路を何とか施工している状況だ。

ところが、今国会の質疑では、どうもこの点が忘れられ、雇用対策・景気浮揚対策として公共投資がなされていた時期の事業(道路構造令を厳格に適用した過度に立派な道路や本四架橋など)を例に、「だからこれからの道路もムダ」という主張がなされたりしてきた。
もとより、今後の計画について、厳格なチェックは必要だ。
それがどの党の指摘であっても、国民の目から見て、明らかに必要がないと認められるような計画が指摘されれば、計画を止めることに躊躇してはならない。

ただ、昔の感覚で、今後も、費用便益計算の甘い公共事業が垂れ流しされるかのような誤解が振りまかれるのは、いかがなものか。
確かに、民主党の小沢代表は、少なくとも小渕内閣の時代、与党自由党の党首として、徹底したケインズ政策を推進し、その結果、地方に、特に必要もない立派なホールが建設されるなどした。
自民党は、その反省に立ち、小泉構造改革により、「公共事業は、真に必要な社会資本の整備のみ」と、既に舵を切ったわけだが、小渕内閣時代の前時代の感覚で物を見られても、ちょっと当惑する。
いずれにせよ、我々は、小泉構造改革の成果を、しっかりと堅持し、国民の理解を深めていくことが必要だ。(次回に続く)