「現場主義・情熱・政治主導の知恵」が強い農業を創る~本新酪農と故山中貞則氏のこと

2009-7-11

本新酪農協で農業への情熱を語る

6月17日の本新酪農協同組合(稲敷市)総会。
昨年のこの季節は、トウモロコシ等の国際相場高騰による配合飼料価格の急上昇が、畜産・酪農農家の経営を圧迫、緊急の対策が求められていた頃だ。
そして、自民党としても、配合飼料高騰対策プロジェクトチームを設置し、それまで3年間にわたり畜産・酪農小委員長を務めていた私が座長に就任、20回余にわたる議論の末、6月に、思い切った緊急対策を作り上げた思い出がある。
私は、このような経験を通じ、「強い農業」を創るためには、「現場に思いを馳せ」、「情熱を傾け」、「政治家自身が政治主導で知恵を出す」ことが必要と考えるようになっていった。
「現場に思いを馳せる」ことの大切さを教えて頂いたという意味で、私は、本新酪農協の皆さんにお礼を言わなければならない。私が、役所を辞めて、茨城3区の地元回りを始めたのは、平成11年の春だったが、それまでは不勉強で、本新という、霞ヶ浦の南岸の、小さな酪農のムラの存在を知らなかった。
実際、私の選挙区内の畜産・酪農農家の戸数は、むしろ少ない方。また、稲敷市の南部、旧東町は、どちらかと言えば、コメの単作地帯だが、霞ヶ浦沿岸に、戦後山形などから開拓のため入植した酪農家数十戸が、寄り添って、営農を続けている。

最初に本新の皆さんから相談を受けたのが、平成12年から義務づけられることになった「糞尿の堆肥化」についてだ。
家畜の糞尿は、霞ヶ浦の水質悪化の一因ともされているが、全国的にも環境対策上の問題が指摘され、ではこれを堆肥にしていこうということになった。
しかし、堆肥化の施設にはお金が必要だ。
国や地方自治体の補助を貰っても、1酪農家1000万円ほどの支出が必要で、体力がなく、離農する農家も出ていた。
当時の本新酪農協の細谷組合長からは、補助金の仕組みや、堆肥の処分先など、どこまでお役に立てたか分からないが、何くれと相談にのった記憶がある。
そして、その中で、普通の本州の酪農家の実際の生活、悩み、不安等々を、霞ヶ浦からの風を感じながら、現場で体感することができた。
私は、平成15年の衆議院初当選後、平成17年から20年まで、畜産・酪農対策小委員長を務めさせていただいたが、難題が出てくるたびに、青空、湖水、牛舎、水田といった本新の風景を頭に描きつつ、諸対策に取り組んできたように思う。
実際、風景や風土、農家の顔が思い浮かばないような農政は、本当の意味で、農政ということはできないように思う。

また、「情熱」の大切さを改めて感じたのは、平成17年に畜産・酪農対策小委員長に就き、多くの先輩、関係者からお話しを聴く立場になり、畜産・酪農政策の基礎を築いた故山中貞則元衆議院議員(鹿児島県選出)の仕事を学ぶことができてからだ。
わが国の畜産・酪農業は、牛肉自由化、飼料高騰による畜産危機、返還後の沖縄振興の問題等、過去にも多くの困難を乗り切ってきた。
これらの問題が出来する度に、必ず登場したのが山中先生だった。
外国との交渉の武勇伝、選挙区でもない沖縄の離島振興にかけた姿勢(沖縄八重山諸島の畜産農家にとって、山中先生は今でも神様だ。)など、そこには、「日本に強い畜産・酪農業を創りたい」というほとばしるような情熱があったように思う。

加えて、「政治主導の知恵」も必要だ。山中先生は、何回も大臣を経験した後も、議論は、最もよく実務を知っている課長補佐・係長としたという。
事実、畜産・酪農政策の中には、このような議論の結果生まれた、役所の発案でない多くの政策が、今でも数多くある。
危機の度に、斬新な政策が、日本の畜産・酪農農家を救ってきた。
そして、農業の将来に対する不透明感が増している今だからこそ、役所の発想に囚われない、政治家自身の知恵が求められている。

昨年、配合飼料高騰対策プロジェクトチームを主宰した私は、現場を重視した上、少しでも、山中先生の顰(ひそ)みに倣おうとした。
飼料用米等の現場視察、徹底したディスカッション、そして、緊急対策の組み立ては、役所でなく、自分自身で行った。
もとより100点とは言えなかったかも知れないが、比較的スピーディに、実効性のある対策を打ち出すことができたと自負している。

翻って、他党のことではあるが、民主党の農業政策を見ると、そこには、「政権を奪りたい」という「情熱」は感じるが、私の目から見ると、「強い農業を創りたい」という「情熱」は感じることができない。
やはり我々がやらねばなるまい。

私は今、自民党の農業基本政策委員会の主査として、主としてコメ政策に携わっているが、考え方の基本は、畜産・酪農政策と異なるところはない。
我々は、過去の先達に学びながら、「現場に思いを馳せ」、「情熱を傾け」、「政治家自身が汗をかき、知恵を出す」という自民党の良き伝統をいかし、再構築しながら、わが国に、強い農業を創り、根付かせていかなければならない。