「『サンタフェ』を廃棄しろ」?~誤解を排し正確な児童ポルノ規制の議論を

2009-7-2

児童ポルノ禁止法案の答弁に立つ

7月1日付けの「東京新聞」と「日刊ゲンダイ」。
6月26日の法務委員会で、私が、児童ポルノ禁止法改正案の与党案が成立すれば、宮沢りえさんの「サンタフェ」を1年以内に廃棄しろと答弁した旨の記事が載り、私自身目を疑った。
私は、そんな直截的な答弁は行っていない。
具体の「サンタフェ」という書籍は、私自身見てもいないため、そもそも「児童ポルノ」か否か判断できようはずがない。
これまで述べたように、法制定時、児童の裸の描写物は、基本的には「児童ポルノ」に含めていこうという方向で検討を行ったが、医学書や家族の記録等を除くため、「性欲を興奮させ、刺激するもの」という限定が付された。
そして、この「性欲を興奮させ、刺激するもの」の解釈については、法施行後相当詳細な判例も示され、かなり具体的な限定となっており、決して「あいまい」なものではない。
なお、衆議院法制局に問い合わせたところ、その判例に照らせば、「多分『サンタフェ』は現行法の『児童ポルノ』に当たらないのでは」とのことだった。私は、あくまで改正案の提出者であり、現行法の定義規定について、権威のある解釈や答弁を行う立場にはない。

だから、「どのような書籍でも、現行法にいう『児童ポルノ』の定義に該当すれば、みだりに所持してはならないと考える」ということを一貫して答弁し続けてきた。
そして、衆議院法制局の回答によれば、「サンタフェ」を廃棄しなければならないといった事態は、そもそも起こり得ず、まさに「空騒ぎ」もいいところだ。
ただ、何も「東京新聞」、「日刊ゲンダイ」に限らず、私の事務所に来るメール・FAXや、ネット上では、どうも「誤解による決めつけ」に基づく情報が伝播しているようだ。
このコラムでは、子供の保護を図り、今後の正確な議論に資するため、先の「サンタフェ」の問題も含め、私の答弁・質疑が、誤って理解されていると思われるいくつかの点について書く。

1「ジャニーズ上半身裸」禁止の可能性が高いのはむしろ民主党案

まず前置きしておくが、私は、「ジャニーズがショーの途中で上半身を脱いだ写真」は、「児童ポルノ」として扱うべきでないと思うし、個人的には、現行法上、「児童ポルノ」に該当しないのではと考えている。
というのは、ジャニーズのショーは、そもそも、歌唱・ダンスを見せ、聴衆を元気づけるもので、ストリップショーのような性的なショーとは明らかに異なり、ジャニーズのショーの過程で、上半身裸となって歌う写真が撮られたとして、それは、「1つの思い出」であり、「性欲を興奮させ、刺激する」ものでないため、「児童ポルノ」から除外されると考えるからだ。
ただ、あくまで改正案の提案者である私は、改正対象でない現行法の定義規定について権威ある答弁をする立場にはないため、質疑答弁では、現行法についての個人的見解は述べなかった。

ところが、民主党案は違う。
民主党の案では、18歳未満の者の性器等(男性の乳首を含む)を殊更強調する描写物は、性欲を興奮させ、刺激させようがしまいが、全て「児童ポルノ」となってしまう。
これについて、民主党案提出者の枝野衆議院議員は、「ジャニーズの場合は、上半身裸であって(乳首が特に大きく表現されていて)も、それは『殊更露出したり強調したりしたもの』ではないため、民主党は『児童ポルノ』から除いたつもり。ジャニーズでなければ当たる。」旨の、私には良く分からない答弁を繰り返していた。
ただ、少し法律をかじった者からすれば、民主党の法案は、すなおに読めば、ジャニーズの上半身裸写真を児童ポルノの対象としてようとしているとしか思えない。
だから、私は、質疑の中で、「(民主党さんの案では)、民主党が除外したと称している『ジャニーズの上半身裸』も『児童ポルノ』になりますよね。」としつこく質したわけだ。
枝野氏の答弁は、何が当たるか、何が当たらないか、答弁を聴けば聴くほど極めてあいまいで、多分民主党案が成立すれば、警察権力が市民生活に介入するきっかけを与えてしまうかも知れないという印象だった。

「誤解による決めつけ」派は、私がジャニーズ上半身裸規制を推進しているかのような喧伝をしているが、事実は全く逆で、私は、6月26日、民主党案ではジャニーズ上半身裸の除外ができないのではという強い疑問を呈し、民主党案の危険性を指摘したわけだ。

なお、民主党案は、枝野氏の答弁では、私には、「たとえ性器等が露出してなくても、おしりや胸が描写されていれば、着衣でも児童ポルノになり得る場合もある」と解釈せざるを得ず、これでは、現行法よりもあいまいになってしまう。
また、枝野氏の答弁によらず、参考人(法律家)の答弁によれば、民主党案では、性器等が露出・強調されていない児童の盗撮画像や緊縛画像は、児童ポルノから除かれることになる。
いずれにせよ、民主党案の定義は、かなりアブナイ。

2「『サンタフェ』を廃棄しろ」って誰が言った?

先にも述べたように、宮沢りえさんの「サンタフェ」が、「児童ポルノ」に当たるのか否か、見ていない私としては判断のしようもない。
「児童ポルノ」に該当するものは、どんなに有名な女優であってもアウトだし、「児童ポルノ」に該当しないものはセーフとしか言いようがない。だからそう答弁した。
さらに、今回の与党改正案は、現行法の定義規定に変更を加えていないため、改正案以外の定義規定の解釈について、私が有権的な解釈・答弁を行うことができるはずもない。
立法時、児童のヌードは基本的には「児童ポルノ」にということで検討し、その上で、「性欲を興奮させ、刺激するもの」に限るという限定を付したが、立法時考えられた医学書、家族の記録のほか、施行後、裁判所により、「性欲を興奮させ、刺激するもの」の具体的内容が判示されるに至っている。
判例の詳細な引用は省くが、具体の書籍が「児童ポルノ」に該当するか否か、私は、第1義的な解釈権を持つ所管省庁が判断すべきと思うし、ミリオンセラーにもなった有名な書籍であれば、政府も、問い合わせに対応する位のサービスはすべきであろう。
なお、「サンタフェ」については、私も後で聞いたが、衆議院法制局によれば、「判例に基づけば『児童ポルノ』に該当しないのでは」とのことで、私が「『サンタフェ』を廃棄しろ」と言ったなど、誤解に基づく決めつけも甚だしい。

3「自己の性的好奇心をそそる目的」の立証は丁寧に

与党改正案は、「自己の性的好奇心をそそる目的」で「児童ポルノ」を所持する行為に、罰則をもって対処している。
野党質疑者は、これが自白のみで立証され、えん罪が生まれる危険性を指摘、私は、えん罪を生まないように、自白だけでなく、客観的な事実(画像を何回開いたか、何回も見た形跡のある本か、量はどうか、その人の日常の行動はどうか等)とともに、総合的に立証していけば、懸念は当たらないと答弁した。
この答弁が、その一部のみを取り出し、私が、「数回画像を開いていればアウト」と言ったとか言わないとか、不安を煽る情報が広がっているらしい。これは、明らかにためにする動きだ。
私は、「自己の性的好奇心をそそる目的」等の立証は、極めて丁寧に行われるべきだと、一貫して考えている。
ただ、えん罪の可能性があるから、自白を証拠として採用しないとか、そもそも法規制をゆるめるべきというのは、本末転倒だ。
かつて私は、大学で、「自白は証拠の王」と教えられた。
しかし、その一方、本人の自白のみによっては、人を罪に問うこともできないのも事実だ。
自白には、厳格な任意性・信用性が求められ、さらに、それ以外の証拠を収集する不断の努力が必要なことは言うまでもない。

私に足らざるところがあれば、批判は甘んじて受けよう、ただ、東京新聞にしても、日刊ゲンダイにしても、ネット利用者の方にしても、批評をされる場合は、質疑の一部を切り取ったコメント付の動画やネット情報でなく、まず法律案をお読み頂き、衆議院TVで、6月26日の午前午後の質疑全てをご覧になって頂きたいと思う。
色々書きたいこともあるが、7月2日から与野党修正協議に入るので、本日はこれくらいに止めておこう。
6月26日の質疑では、枝野氏も、「修正の用意がある。」「本心は単純所持禁止」と言われていたし、民主党の小宮山衆議院議員も「私は単純所持禁止が望ましい」と言われていた。
私自身は、決して教条主義者ではない。
民主党案の定義規定のような、あいまい化(ジャニーズも入る?)、後退(緊縛・盗撮画像を除外?)が阻止できれば、段階的前進であっても、こどもの保護のためには大きな進歩で、話し合いの余地は十分にあると考えている。
解散目前ともいわれる政局とは切り離して、是非合意に至りたいものだ。