税金のムダ排除に失敗した予算案~そもそも自らに甘い目標を設定していた民主党政権

2009-12-26

12月25日、平成22年度の政府予算案が閣議決定された。
総額92兆3千億円に上る過去最大の当初予算案で、国債発行額も、戦後初めて税収総額を上回るという、率直に言って、今後の財政運営に大きな不安を残す予算案と言わざるを得ないものだ。
さて、民主党政権は、総選挙後、マニフェストを達成するための予算を各省要求に上乗せさせた結果、概算要求総額が、これも過去最大の約95兆円に上ったのを受け、「徹底的に税金のムダを洗い出し」「埋蔵金を探り当てて財源に充てる」ことを表明していた。
そして、藤井財務大臣や仙谷行政刷新担当大臣は、本年秋口から、「95兆円の概算要求を92兆円程度に圧縮して見せる」と、さも大変なことをやるかのようなシグナルを送り、その手段として、「事業仕分け」などの場面が大々的に報道されたりもした。
しかし、私は、「95兆円の要求を切り込んで92兆円に」という目標を聴いた途端、「これは本気でやる気はないな」、「相当予防線を張っているな」と感じていた。
何故なら、この目標は、極めて甘い目標で、「税金のムダ排除」という彼らの大見得から、相当かけ離れたものだからだ。
私には、彼らがこのような甘い目標を設定したことは、「概算要求」の仕組みが世間に余り知られていないことを奇禍としたマヤカシにしか思えない。

国の予算を編成するに当たり、財務省は、毎年8月末頃、各省からの予算要求を受け付ける。
これが世に言う「概算要求」だ。

ただ、各省とも、勝手に必要額を要求していては、予算はいくらあっても足りない。
そこで、毎年8月初め頃、「概算要求基準」というガイドラインが決められる(閣議決定)されることになっている。

例として、自民党が勝利した前々回総選挙後の平成18年度予算について見る。
この年の各省概算要求は、今年と同様、総選挙後に行われたが、その要求基準は、
○固定経費(人件費など)は前年比同額要求を認め、予算化する。
○社会保障費は前年比3%増要求を認め、予算化する。
○投資的経費(各種事業費(公共事業を含む))は前年比16.4%増の要求を認めるが、予算額は前年比3%減とする。
というものだ。

投資的経費について、前年より多い要求枠を認めたのは、例えば、要求枠を前年同額などと固定化してしまうと、既得権益と結びついた継続事業が優先され、予算が硬直化しかねないからだ。
だからこそ、わざと、その年の政策目的に沿った新しい事業を要求させ、総額は前年より少なく切り込もうというわけだ。

自民党政権下、概算要求は、おおむねこのような形で運用されてきた。
そして、賢明な諸氏はお気づきのように、「概算要求総額」は、もともと、「予算案総額」よりも多くなって当たり前のものだ。

実際、平成18年の概算要求基準では、その年の9月の段階で、
○概算要求額は前年比約3兆円強増
○予算原案は前年比約2400億円増(社会保障費増加のため)
とすることが既に決まっており、要求側の各省も、財務省の査定により、概算要求総額を約3兆円圧縮されることを覚悟していたわけだ。

このように、概算要求総額を3兆円程度切り込むこと、すなわち、「95兆円の概算要求総額を92兆円程度の予算に圧縮する」ことは、自民党政権下でも財務省がやってきたことで、現在の民主党政権の方々が、特別なことをやろうとしたわけでも何でもない。
だから冒頭、私は、民主党の言う目標を、「極めて甘い目標」と申し上げたわけだ。

「政治主導」を発揮して、税金のムダ排除を実現するには、概算要求総額を、「財務省主導の3兆円圧縮」以上に圧縮できるかどうかということで評価しなければならない。

平成17年の総選挙後、過去のコラムでも述べたが、私たちは、早速、特別会計改革に乗り出し、政治主導によるさらなる予算の切り込み、ムダの排除に乗り出した。
郵政選挙の高揚が残る中、「事業仕分け」のような公開裁判は行わなかったが、2期生以上の同僚議員がいくつかのグループに分かれ、数ヶ月にわたる丹念な作業を行っていった。
当時、マスコミは、1期生の小泉チルドレンらが、やれ「料亭に行きたい」と言ったとか言わないとかといった話題に狂奔しており、特別会計改革の話題などは、ベタ記事にしかならなかったが、極めて膨大な作業量だった。
そして、この年、すなわち平成18年度の予算案では、概算要求総額が85兆3千億円だったのに対し、政府予算案を、79兆7千億円とし、概算要求総額を約6兆円圧縮することができた。

政治家は、結果によって評価されなければならない。
「事業仕分け」の場面がテレビに映ろうが映るまいが、それが目で見て面白かろうが面白くなかろうが、ムダの排除に成功したかどうかは、どれだけ概算要求総額を圧縮できたかという、「数字」で判断されなければならない。

平成17年、私たちは、「公開裁判」の手法は用いなかったが、各省庁の担当者を、それこそ締め上げながら、事業の必要性についての意見も真摯に聴き、財務省主導の3兆円圧縮を上回る、約6兆円の概算要求総額圧縮を実現した。
平成21年、民主党政権は、「事業仕分け」を公開し、いかにも政治主導で予算切り込みやムダの排除を行っている姿勢を見せながら、概算要求総額の圧縮幅は、財務省主導の3兆円のみに止まった。

鳩山総理も、「予算編成は財務主導だった」と認めておられるが、この発言は、とりもなおさず、民志党政権が、今回の予算編成で、「ムダの排除」に失敗したことを意味している。
さらに、もともと、「95兆円を92兆円に圧縮する」という自らに甘い目標を掲げたこと自体、実はやる気がなかったという疑念も生じざるを得ない。

さて、今回の予算案は、これに加えて、民主党のかねてからの主張である「埋蔵金探し」に成功したとは、とても思えない内容でもある。
この点については、次回コラムで述べる。