放漫財政のつけを国民に回す増税であってはならない~最近の歳出の急膨張問題を題材に

2012-1-16

最近3年間で消費税5%分の支出を拡大させたわが国財政

1月13日、野田内閣は、発足4か月で、参院で問責決議を受けた閣僚を交代させるための内閣改造を行い、あわせて岡田前幹事長を、社会保障と税の一体改革担当の副総理に起用し、消費増税(5%程度?)への決意を示した。
今、増大する社会保障費を賄うためには、最終的には消費税に財源を求めざるを得ないと、多くの国民は感じて始めている。
マスコミも、消費増税容認の大合唱。
ただ、麻生・鳩山・菅政権にまたがる最近3年間で、消費税5%分に相当する約10兆円もの支出が拡大(当初予算ベース)してしまったことは、何故か余り報じられていない(左図)。
野田政権の編成した平成24年予算案も、震災対応費(別会計)以外の一般会計予算歳出額は、昨年を上回っている状況だ。
お金の出口をコントロールしなければ、増税を実施しても、穴の開いたバケツに水を注ぐようなもので、財政再建には役に立たない。
今回は、この点を検証してみよう。

当初予算歳出急膨張の具体的数字

(重要な指標である「当初予算」)
「国の予算」という場合、大きく、通常国会で審議される「当初予算」と、追加的に編成される「補正予算」に分けられる。
このうち、「補正予算」は、例えばリーマンショック後の恐慌対策(麻生内閣、約15兆円)、東日本大震災復興・復旧対策(菅・野田内閣、約15兆円)など、どちらかというと、不測の事態に対応して緊急的に編成されるもので、財政の健全性を判断する指標としては、「当初予算」の状況が、より重要となる。

(平成21年度以降膨張の一途をたどったわが国財政)
さて、過去10年間における当初予算(一般会計)歳出は、冒頭のグラフに示したが、おおむねの数字を示すと、右上の表のようになる(平成24年度政府案については、前年度同様、基礎年金国庫負担分を含む。)。
この表から明らかなように、平成14年度(小泉政権編成)から平成20年度(福田政権編成)までは、多少の増減はあるものの、歳出規模はほぼ横ばいとなっている。
ところが、平成21年度以降、歳出規模は、拡大の一途をたどる。
もとよりそれぞれの理由はある。
まず平成21年度(麻生政権編成)は、この年から、基礎年金への国庫負担を約2.5兆円増額することが既に決まっていたが、これを除いても、世界恐慌への追加的な経済対策が当初予算の中で施され、平成20年度比約3.5兆円の支出増となった。
次に、平成22年度(鳩山政権編成)は、自公政権での経済対策予算を一部執行停止する一方、こども手当など、2009民主党マニフェストに掲げられた政策の一部を恒久的に実施したものの、財源は結局国債増発に頼らざるを得ず、平成20年度比約7兆円の支出増となった。
平成23年度(菅政権編成)、平成24年度政府案(野田政権編成)も、膨張した支出を削減できず、むしろ拡大傾向にある。
この事実を国民に知らせないで、「財政が危機的状況にある」ことを理由に、消費税増税のみを強調することは、「放漫財政」のつけを国民に押しつけることになりかねない。

(早急に歳出の抜本的スリム化の道筋をつけることが必要)
私は、平成15年11月から平成21年7月まで、衆議院議員を務め、現在は外から永田町の政治を見させて頂いている。
そして私は、少子高齢化が急速に進む中、毎年1兆円ずつの当然増となる社会保障関係費を賄うためには、現職当時から、最終的に消費税増税を行わざるを得ないという考え方を持っていた。
だからこそ、「増税前にやるべきこと」として常に挙げられる、「公務員給与改革」や、「政党助成金改革」などにも、プロジェクトチームの事務局長などとして、全力を挙げてきたわけだ。
今回、野田政権は、「国家公務員の人件費削減」(8%弱削減で約4000億円捻出)や「国会議員の定数削減」(捻出額は数十億円?)で「身を切る姿勢」を示し、消費税増税に国民の理解を得ようとしているように見える。
ただ、自民党政権時代に、公務員給与改革などに携わった経験から言うと、消費税増税に国民の理解を得るため、公務員給与改革等は、必要条件ではあるが、十分条件ではない(実際、これによって捻出できるのは、消費税0.2%程度の財源でしかない。)。
こんなに短期間で急拡大してしまった歳出(税金の使い道)について、国民の理解が得られるかどうかと言うことが問題だ。。
だからこそ、例えば、「増税しても『こども手当』(消費税約1%相当額)は必要ですか?」、「増税しても『高校授業料無償化』(消費税約0.2%相当額)を続けますか?」等々、総選挙などの方法で、国民の意見に耳を傾けることが必要と思う。
もしも多くの国民が、「財源があるからということで前回総選挙では賛成したけれど、財源もなく増税が必要ならば、そんな施策は必要ない。」ということであれば、躊躇なく歳出をカットし、特にこの3~4年で急速に膨張してしまった歳出構造を抜本的にスリム化することにより、国民と共に考えながら、増税幅を圧縮していく工夫が必要だ。
このようなプロセスを経ずに、各政党が国会でのオープンな議論でなく、しかも歳出全体の削減に踏み込まずに、消費税増税のための協議を行うことは、「放漫財政」のつけを国民に押しつけるだけの結果となりかねない。

(今求められる歳出・歳入の一体改革)
野田首相は、「社会保障と税の一体改革」について、国会での議論とは別に、与野党協議を呼びかけている。
ただ、これまで述べてきたように、今必要なのは、「社会保障と税の一体改革」ではなく、「歳出と歳入の一体改革」だ。
ところが、野田政権は、こども手当の廃止、高校授業料無償化廃止等を伴う当初予算歳出の大幅縮減には、どうも応じる気配がない。
これでは、なかなか協議に応じる糸口がつかめないのではないか。
私たちは、
○放漫財政を放置したままでの増税
と、
○歳出の徹底したスリム化を行った上での増税
が、根本的に異なることを認識しなければならない。
両者では、当然、増税幅も異なってくる。
だから、平成24年度の予算を、とりあえず暫定予算とした上で、どちらの路線をとるのか、あるいは増税しないのか、国民の信を問い、新たな政権が、国民の信託を受けて、歳出・歳入の一体改革を行うというのも、1つの方法であろう。
いずれにせよ、今野田政権が進めているように、最近の歳出急拡大の検証を行わず、膨張する歳出構造を放置したまま、増税に突き進むことは、放漫財政のつけを国民に回すことに他ならない。