北朝鮮人権法成立(2)~法律を作るだけでなくこれからの努力が大切

2006-6-17

韓国国会議員との会談に臨む

6月16日の参議院本会議、懸案の「北朝鮮人権法」が可決・成立した。
それに先立つこと3日、法案が衆議院本会議を通過した日の夕刻、私たち自民党拉致対策本部の4人の議員団(団長・逢沢一郎幹事長代理)は、韓国のパン(潘)外交通商大臣と会談した。
「北朝鮮人権法」の成立が確実になったのを受け、法律のねらいを韓国に対し説明、6月28日にも予定されている金英男さん(横田めぐみさんの夫?)と、そのご家族との再会を、拉致問題解決の出発点とすべきことを訴えるためだ。
拉致問題に関し、もしも韓国がわが国と正反対の政策をとるようでは、わが国が「対北圧力」を強めたとしても、その効果は大きく減殺されてしまう。
特に最近、状況が急展開し、北朝鮮主導により、金英男さんとそのご家族との再会がセットされることになった。
もとより、ご家族との再会は、感動的で、大変喜ばしいこと。

しかし、これが、北朝鮮が多分意図する「日韓分断」、「拉致問題隠し」に利用されてはならない。
だから、早期に「北朝鮮人権法」を成立させ、北朝鮮の人権問題に対するわが国の立場を明確にし、金英男さんとご家族との再会前に、韓国政府に、日本国民の意思を伝えていく必要があったわけだ。
訪韓は、滑り込みで間に合った。法案の成立が遅れたのは、民主党が、法案の審議入りに応じなかったためだ。
国会対策上、(おかしなこととは思うが)議員立法については、少数意見を保護するため、野党第1党が審議入りを了承しなければ、委員会の議論ができないという不文律があるらしい。
これでは、いつまでたっても法案は店晒し。
某党の方が、「脱北者を積極的に受け入れ、金正日体制崩壊を促す法律制定が必要」と、勇ましいことを言われたとしても、それ故他の法案審議ができなかったら、それこそ何のための国会かと思う。

実は私は、「脱北者の無制限受け入れ」という政策が、民主党議員の総意なのか、個人的にはいぶかしく思っている。中には慎重な議員もいるのではないか。
どうもあの政党、提出法案は「どうせ成立しない」という安心感があるため、(考え方が右から左まで、ある意味で自民党よりも幅広い方々の集まりである)党内のコンセンサスが得られないような過激な意見でも、何故か党議決定してしまう。
そして、マスコミ受けはするが、実現不可能な「対案」を作り、「政府・与党案はナマヌルイ」とアピールしている節がある。
今国会でも、建築基準法改正の対案、運輸安全向上法の対案、農政改革法の対案などは明らかにそうだ。

また、(もっぱら右よりの方が書いたと言われている)民主党提出の教育基本法案も、継続審議でなく、自ら、審議未了・廃案を希望するという具合。それなら何のために提出したのか。
その点、もとより自民党にもいろんな人がいるが、我々は「成立することを」前提に議論しているから、真剣さが違う。

もっとも、「北朝鮮人権法」は、先に述べた議員立法の宿命で、民主党が審議入りにウンと言わなければ成立の見込みはない。
民主党は、「脱北者」に関する規定は必ず入れてくれという。
脱北者問題については、この法律ができようができまいが、国際的動向を踏まえつつ、今後わが国が何らかのアクションを起こす必要はあろう。ただ、現段階で「政府が脱北者の具体的保護・支援」を行うなど、明文化できるはずがない。

そこで、私が鉛筆を握り、6月6日に主に次のような微修正案を作成、自民・公明の党内手続きを経、民主党に提示した。
これは、まず、「脱北者」の定義自体、わが国が主体的に、その保護及び支援の必要性の判断ができるようにすること。
次に、「脱北者」に関する施策の規定は、あくまで努力義務に止め、具体的な施策を今後の検討に委ねることとしたことだ。

すったもんだの末、6月9日には、おおむねこのラインでまとまり、今回この法律の成立にこぎつけた次第。

今後は、前回のコラムで述べたような、国際的な問題、国内的な問題、法律的な問題をクリアしながら、我々として、保護や支援を行うべき「脱北者」の範囲をどうするか、どのような具体策が可能か、さらに詰めていくこととなる。
そして、近々、党の拉致対策本部の中に発足する「脱北者に関する検討チーム」の事務局長として働いてくれと言われている。
まあ乗りかかった舟だ。国際社会における取り組みを踏まえ、国民に納得の得られる施策を検討していくこととしよう。

今回の、「北朝鮮人権法」は、メッセージ法としての性格が強い。
そのメッセージを最大限に活用し、北朝鮮に対する「太陽政策」を掲げ、対北支援強化に動いている韓国に対し、あきらめずに粘り強く、人権問題についての共同歩調を呼びかけていくことも必要だ。
冒頭のパン(潘)外相との会談。
外相は、「我々も、北朝鮮の人権問題を憂慮している。そして、日本の(対北圧力)施策と、韓国の対北人道支援の強化は、互いに補完しながら、北朝鮮の人権問題の解決に寄与する。」と主張、いみじくも、日韓の温度差を浮き彫りにした。
たまらず私から、「貴国が、隣国である故、昨年12月の国連総会での北朝鮮非難決議に際し棄権票を投じたことは承知している。ただ、この決議を踏まえ、わが国も法律を作った。このように、北朝鮮の人権問題に対し国際社会が厳しく取り組むことには、韓国としても是非協力していただきたい。」と発言、さすがにこれには、外相も、「わかった」と応じた。
まあ、一歩前進か。
法律を作ることが目的ではない。北朝鮮の人権侵害問題解決のためには、これからの努力こそが大切だと思う。