「民主党対案」の無責任~建築基準法改正で野党案の問題点を追求

2006-5-26

現場の実例を示しつつ質疑

耐震強度偽装事件の再発防止対策の構築は、行政改革法案や教育基本法案審議と並ぶ、今国会の重要テーマ。
そして、政府の建築基準法の改正案に対し、野党・民主党からも「対案」なるものが提出され、衆議院の国土交通委員会で、双方の案を審議することとなった。
私は、民主党が「対案」を出してきたこと自体は、評価している。
ただ、問題はその中身。
結論から言うと、民主党案は、色んな思いつきをつぎはぎしたため、一見何かたくさんの施策を盛り込んでいるように見えるが、全体として、奇妙きてれつな非現実的法案であるということ。
このような案を、彼らは、「居住者のためになる」と強弁しているわけだが、私は、国民の中に、このようなまやかしに騙される方が出てきてしまうことを心配している。
このため、私は、5月23日の国土交通委員会で、民主党に対し、「対案」の問題点を質した。
字数の関係もあり、3点について述べてみたい。

第1は、民主党案では、地方自治体の事務がパンクしてしまうということ。
平成12年に、建築確認の検査業務が民間解放(民主党も賛成)され、現在、自治体が建築確認を行う件数が年間30万件強、民間のそれが、40万件強の比率になっている。
ところが、民主党は、民間検査機関による検査後、自治体に、「確認済証」の発行を義務づけろと主張している。
自治体側は、「偽装を見逃した責任」を問われるのを恐れることになるから、この主張は、自治体への再検査の義務づけにも等しい。
このほかにも、中間検査、完了後2年後検査の義務づけなど、民主党案は、自治体に大きな業務負担を課す内容だ。
実は、現状においても、自治体の建築主事は、建築確認業務に加え、一定建物の中間検査、完了検査、違法建築対策等で大忙し。
これでは自治体側が消化不良を起こしてしまう。
私自身は、やはり、まずは構造計算の確認業務について、その正確を期すための制度改正が本筋ではないかという気がする。

第2は、民主党案は、現在、会社組織形態が多い建築士事務所の方々を路頭に迷わせる可能性が高いということ。
民主党案は、「建築士の職責の明確化」のため、「建築士事務所の開設者を建築士の資格のある者に限る」とともに、株式会社でない、新たな「建築士法人」という制度を作り、「所属の建築士は、業務に関する不始末について『無限責任(個人の財産を身ぐるみはがれる責任)』を負う」という内容だ。
さて、建築士事務所の現状は、個人開設が6万弱、会社組織が7万強の計約13万。
この案では、会社組織形態はいったいどうなってしうのか。
民主党提出者は、「現在従業員となっている建築士を代表者として組織を再編すればすむ」と言うが、「株式会社」という形をとることが禁止されるため、現時点における出資者(株主)の地位が不明確になり、その理解が得られるとは思えない。
しかも、苦労して「建築士法人」に衣替えしたとしても、建築士は、既に、「意匠」、「設備」、「構造」に専門分化している。
民主党案では、同じ建築士法人に属すると、「構造」の専門家(建築士)が犯した不始末についても、偽装発覚後、「構造」について何も知らない「設備」の専門家(建築士)が、身ぐるみはがれる危険性を内包しているわけだ。
これでは、誰も危なくて「建築士法人」などに参加できない。
相当の建築士が路頭に迷うことになろう。

第3は、民主党案は、広告・宣伝への過剰規制であり、結果として、大企業優遇、中小企業いじめの主張であるということ。
民主党案は、「マンションの住宅性能保証の保険加入促進」などのため、例えば、不動産業者に対しても、全ての土地や家の売買に関する、あらゆる広告宣伝について、「地番、価格、引き渡しの方法、保険加入の有無等々」数多くの事項を盛り込まなければ、罰金をかける内容となっている。
ところが、特に中小の不動産業者については、例えば、「取手市白山・売地970万・お問い合わせはどこどこまで」程度の新聞広告を出し、実際に店に来てもらったり電話をしてもらって、各種の説明を行うことが多い。
民主党案では、このような広告や、営業活動が禁止されてしまう。
大企業は何とかやっていけても中小は厳しい。これでは、「中小企業いじめ」ととられても仕方がない。
民主党提出者は、「厳しくなるのは事実だが、消費者のためにご理解を」と言う。
勿論誇大広告は、しっかり規制すべきだ。
しかし、消費者に対する情報提供である広告宣伝を過度に規制することは、中小企業だけでなく、消費者のためにもならないと思う。

他にも、民主党案の問題点をあげればキリがないが、このへんでとどめておく。
ただ、民主党には、「対案路線」と言うと聞こえは良いが、どうも、「どうせ成立しないのだからパフォーマンスでいこう」という甘えが見て取れるように思う。
今回は、いみじくも、民主党の政権担当能力の欠如を明らかにした質疑だったように思う。