マニフェスト撤回なき消費増税は無意味~各党は来年度予算の編成方針を争点に国民の判断を仰げ

2012-4-5

街で、消費税問題について意見をかわす

3月30日、野田・民主党内閣は、消費税増税法案を閣議決定、民主党の内紛も絡み、政局は慌ただしさを増してきた。
党内に消費増税反対派を多く抱える野田・民主党は、前回参議院選挙で、自民党が、「消費税増税」を公約したことを逆手にとり、露骨に自民党への秋波を送っているが、自民党は自民党で、どうも立ち位置を決めかねているという印象だ。
そこで今回は、野田内閣の消費税増税法案の問題点をいくつか指摘しつつ、私なりの法案への対応について、考え方を述べてみたい。(「マニフェストの原点に回帰」を掲げる限り増税は無意味)
まず、民主党が、前回総選挙での「マニフェスト」を重視する立場を変えない限り、彼らの手による消費増税は無意味であることを指摘しなければなるまい。
こども手当、最低保障年金、後期高齢者医療廃止、高速道路無料化、暫定税率廃止、高校授業料無償化、農業者戸別所得補償等々、2009年総選挙における民主党マニフェストに掲げられた新規バラマキ政策の所要額総計は、16.7兆円(消費税8%分)。
彼らは、前回総選挙当時、これらの財源を、「ムダの削減」や「埋蔵金充当」により全て賄うことが出来ると主張していたわけだが、ふたを開けてみれば、「災害対策予備費削減」、「農地改良事業費削減」(いずれも現在は増額中)などで捻出できたのは、たった3兆円、あとは借金を増やさざるを得ず、財政状況も苦しいため、マニフェストに掲げられた多くの施策が実現できずにいるのはご案内の通りだ。

にもかかわらず、野田首相は、民主党代表への就任時の演説で、「マニフェストを重視し、その原点に帰る」と主張した。
これは、「今は全部出来ないが、あきらめないで、財政状況が好転しさえすれば、16.7兆円分の政策を実施するチャンスを窺いますよ。」ということを意味する。
この主張を取り下げない限り、いくら消費増税をして財政状況を一時的に好転させても、その都度、マニフェスト実現の歳出圧力には結局抗しきれないこととなり、増税は全く無意味となってしまう。
だからこそ、野田内閣は、消費増税法案を提案するに当たっては、まず、「マニフェストはあきらめました。撤回します。」と明確に宣言した上、国民に謝罪しなければならない。

(「歳入庁設置」を法案に潜り込ませるな)
民主党は、法案の党内調整の過程で、国税庁と日本年金機構を統合し、国税と年金保険料を一体として調整する「歳入庁」の設置を法案に盛り込んだ。
もともと、日本年金機構は、自公政権時、自治労の影響力が非常に強く、業務もデタラメを極めた旧社会保険庁を出直し的に改革するため、非公務員型の独立行政法人として設計されたものだ。
そして私も、ヤミ専従問題、年金記録改ざん問題等を解明するプロジェクトチームの事務局長などとして、この改革に携わった。
ただ、実際の発足は、労働組合を支持母体とする民主党政権下となってしまったため、私たちが目指した不良職員の排除(分限免職等)は行われず、身分は引き続き保証され、改革はうやむやとなって現在に至っている。
このような日本年金機構を、国税庁と統合することは、現在非公務員である旧社会保険庁の職員(多くの不良職員を含む。)に、再び公務員としての身分を付与するということになる。
たとえは悪いが、「泥棒に追い銭」の類と言われても仕方ない。
そして、民主党内の増税反対派を説得するため、支持母体である労働組合の権益擁護につながる規定を追加した手法は、いかにも姑息だ。
旧社会保険庁の改革も頓挫、民主党が得意としていたはずの年金記録問題への対応も特段の進展が見られない現状で、「歳入庁設置」を増税法案の中に潜り込ませるべきではない。
私たちは、もう一度、旧社会保険庁改革の原点に帰り、国民のための年金業務を再構築すべきだ。

(来年度予算の編成方針について国民の判断を仰げ)
良く、「やるべきことをやれば消費増税はしなくても済む。」という議論があるが、私は必ずしもその説は採らない。
国家公務員人件費削減や国家議員定数削減などは極めて重要だが、国家公務員人件費を2割カットして捻出できる財源は1兆円、国会議員定数を80人削減して捻出できる財源は約100億円で、あわせて消費税0.5%分に過ぎない。
ところが、現在わが国の基礎的財政収支の赤字は、消費税12%分に当たる24兆円(先日のコラムで述べたように、赤字のうち約12兆円は自民党政権時に積み上がったものだが、残り12兆円は民主党政権時に積み上がったもの。)。
財政再建の観点から見ると、消費税5%増税(10兆円程度)は「焼け石に水」で、歳出構造に抜本的なメスを入れない限り、近い将来の大増税が不可避というわけだ。
そして、今後の大増税回避のためにも、歳出の大幅なカットは、来年度予算から行っていく必要があるし、その方針を打ち出すリミットは、予算編成方針である概算要求基準を決定する本年7月ということになる。
ただ、歳出の大幅カットは、やはり痛みを伴う。それもかなりの痛みだ。
だとすれば、リミットである本年7月の前に、国民の判断を仰ぎ、国民の声を踏まえた歳出カットを断行することが必要ではないか。
個人的な意見としては、その際、現在のバラマキ政策を段階的に縮減する歳出改革の工程表を示すことで消費税などの増税幅を必要最小限度とするとともに、納税環境を抜本的に整備し、生活必需品への軽減税率の適用等を行う歳入改革案を提示すべきと思う。
いずれにせよ、各政党は、来年度、どのような歳出カットを行うべきか、それぞれ具体案を策定し、さらに、消費増税法案への賛否も明らかにした上、その具体案の違いを争点に、国民の判断を仰ぐことが、民意を反映した財政再建につながるのではないか。